【映画評】オケ老人!

バイオリンが趣味の数学教師の千鶴は、新しく赴任した高校がある地元の文化会館で、アマチュア・オーケストラによる見事な演奏に感激し、入団を希望する。だが彼女が入ったのは演奏を聴いた名門「梅が岡フィルハーモニー」ではなく、名前が似ているが別のオーケストラ「梅が岡交響楽団」。そこは老人ばかりの演奏レベルも最低のオーケストラだった。だが、若者の入団に大喜びする老人たちに、千鶴は、間違えて入ったとは言い出せなくなる。さらに、成り行きで指揮者を任されることになってしまう…。

勘違いで老人ばかりのオーケストラに入団してしまったヒロインの奮闘を描くクラシック人情コメディー「オケ老人!」。原作は「ちょんまげぷりん」などの人気作家、荒木源の小説だ。クラシック音楽ものでよくある、ダメダメなオーケストラを、熱意ある主人公が立て直すという定番のストーリーだが、個性あふれる老人たちと、主人公・千鶴とのコミカルなやりとりが楽しい。エリート集団「梅が岡フィルハーモニー」と素人同然のダメダメ集団「梅が岡交響楽団」には、過去の因縁があるのだが、そこにフランス人の有名指揮者ロンバールの予想外の行動がからみ、千鶴と団員たちは、音楽の本当の素晴らしさに目覚めていく。

楽曲を最後まで演奏することさえ無理だった老人たちが、突如上手くなる展開や、バイオリニストの千鶴がいきなり指揮者になるなど、ご都合主義の展開も多々あるのだが、そこはウェルメイドな人情劇。クライマックスの演奏会のハプニングと感動も含めて、微笑ましく見ていられる。個人的には、主人公の千鶴が、音楽に対し“ほどほどの情熱”で接しているのが好ましい。プロになったり、コンクールで優勝したりという高すぎる目標ではなく、地元のアマチュア音楽愛好家が、彼らなりの音楽愛で目標を達成していく物語に親近感が持てる。全編を彩るクラシックの名曲と、楽器演奏と指揮を猛特訓したという主演の杏の頑張りに注目だ。杏のマニッシュな魅力が作品全体をさわやかに仕上げている。
【60点】
(原題「オケ老人!」)
(日本/細川徹監督/杏、黒島結菜、坂口健太郎、他)
(コミカル度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月12日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式サイトより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。