来るトランプ政権を先のレーガン政権となぞらえて解釈しようという報道、コラムが散見されるようになりました。
トランプも連邦法人税の20%減税等大型の減税政策を公約に掲げていますが、レーガン政権は経済学者アーサー・ラッファーが提唱した「ラッファーカーブ」に基づいた減税政策を主軸に据えていました。
ラッファーカーブは下図を見てわかるとおり縦軸:税収、横軸:税率を取った場合、縦横の関係は曲線を描くようになるという考え方です。
主に税率が0%、100%では税収は0になるので税収を最大化させるために税率を最適化させようという時に援用される考え方です。
かつてのレーガン政権も現状の税率は曲線の半分の右端の方にあると考えていて、税率を中央部分に寄せることで企業活動は活性化し、税収も最大化されると信じていました。
背景には、アメフトのスタープレイヤーから下院議員になったジャック・ケンプがラッファーカーブに惚れ惚れして大統領選出馬前の役者出身のレーガンに入れ知恵したというのがあるわけですが、ラッファーカーブは「ブードゥー経済学(まやかし経済学)」とも言われ、世間の評価も分かれる考え方です。
実際のとこ、結果はどうだったかというと見事に失敗でした。
税収の増加率/年は先のカーター、フォード政権ではそれぞれ10.5、13.9%ありましたが、
レーガン政権では1期、2期それぞれ5.2、7.4%しかありませんでした。
これは金融引き締めによる景気後退の影響や冷戦下での国防費増もあったと思うのですが、「双子の赤字」とよばれる貿易赤字、財政赤字は突出して大きくなり、レーガン政権期中の1985年に米国は対外純債務国に転落してしまいます。
国防費については92年大統領予備選の共和党候補パトリック・ブキャナンを彷彿とさせる「アイソレーショニズム(孤立主義)」を標ぼうしているものの、トランプの軍事担当の側近からは国防費増加を匂わせる発言も出ています。
また、金融政策面ではトランプはこれまで連邦準備制度理事会(FRB)の政策について報道の取材に対し、FRBへの政治介入、イエレン議長の更迭にも示唆しながら「低金利が最良だ」と言ったり「低金利を撤回すべきだ」と言ったり矛盾した発言を繰り返してきました。
すでにイエレン議長は利上げの可能性に言及しており、市場も12月利上げを想定しています。金融が引き締められる中景気が後退し、減税効果を打ち消すことによる財政赤字の増加につながるリスクは根強く存在します。UFJリサーチアンドコンサルティングのレポートによると、政府債務は10年後に対GDP比で現在の26%増えることが想定されています。
私見ですが早晩トランプ政権は基軸通貨ドルを捨ててでも失敗の前例を乗り越える賭けに出てくると思います。
国際銀行金融通信協会(スイフト)によると2016年3月の国際決済額のうち米ドルは43.9%と二番手のユーロが29.83%であることを考えると大きな開きがあります。
基軸通貨の裏付けとなるアメリカそのもの信頼性はこれだけの政府債務があってなおも安定していますが、レーガノミクス→双子の赤字の再来としてのトランプノミクスを経て、どう評価されるでしょうか。
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に見られるように、中国は人民元の基軸通貨化に向けて着実な一手を打ってきています。
ドルが基軸通貨の座を明け渡すことは短期では考えられませんが、各通貨のウェートバランスが変動し金融多極化が近年起こる可能性はあります。
呼応するかのように今月10日トランプの安全保障担当顧問ジェームズ・ウルジーはオバマ政権のAIIB不参加は誤りだったとして、方針転換を図る可能性を表明しました。
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水谷翔太( Shota Mizutani)
元大阪市天王寺区長
株式会社Field Command’s Triumph CEO
金沢大学 アドバイザー
内閣府地方創生推進事務局 地域活性化伝道師
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