トランプ氏に「指図」する朝日新聞

「米国の役割を果たせ」?

トランプ氏当確翌日、11月10日の朝日新聞社説〈トランプ氏の勝利 危機に立つ米国の価値観〉に、〈米国の役割の自覚を〉とする一節がある。

中露朝の行動を含め、国際情勢が緊張感を高めていると前置きしたうえで、「内向き」のトランプ氏は、これまでアメリカが国際社会で果たしてきた主導的立場を理解していないのでは、とし、同盟国へのコスト増と核武装発言に触れる。そしてトランプ氏にこう問うている。

〈米国の役割とは何か。同盟国や世界との共同がいかに米国と世界の利益になるか。その理解を早急に深め……(以下略)〉

へえ、そう思っているんだ、と意外だった。アメリカは国際社会の安定のため、同盟国のために、軍事力を含む国力を以て積極的に問題に取り組めと言うわけだが、ではそのアメリカの同盟国である日本は何もしなくていいのだろうか。

国際社会で果たすべき役割には、朝日の大嫌いな自衛隊の「海外派遣」も入ってくるかもしれない。「アメリカは世界の利益のために働け。日本は9条があるからできないけどな」ってわけにはいかないだろう。

朝日が沖縄世論を裏切る日

さらにその翌日、11月11日には、朝日新聞は〈「トランプ大統領」の衝撃 地域安定へ試練のとき〉と題する社説を掲載。

〈選挙戦でトランプ氏は、日本など同盟国の負担増を求めてきた。負担を増やさなければ米軍を撤退させるという主張だ。だが、同盟国がただ乗りしているような議論は誤りだ。同盟国の存在は、米国自身の安全保障にとっても重要である〉

あれれ。これだけを読むと、朝日新聞は「世界各国にあるアメリカの基地はアメリカの役にも立っているんだから、撤退させないで(ただ負担増は認められないけど)」と言っているように思える。朝日はあえて明言していないが、そこに沖縄の米軍基地も入っていることは論を待たない。

アメリカはその巨大な軍事力が国益を生んでいる一方で、「軍事より、世界のことより、俺たちに回してほしい」という貧困層も存在している。だからこそ、同盟国に負担増を率直に求めるトランプ発言が喝采を浴びたのだ。

確かに彼らへの補償を後回しにして予算を軍事に割いてきたともいえるわけで、弱者の味方を装ってきた朝日新聞も現実の前では「あんたらの生活補填より、まずは国際社会の利益が先だ」と言うのだから薄情なものである。

さらに社説は〈中国は南シナ海などで強引な海洋進出を重ね、北朝鮮の核・ミサイル開発も止まらない〉としている。

「そこは『東シナ海』も明記せよ!」と思うが、アメリカが対中戦略上、グアム、沖縄の米軍基地を置いているのは明白で、そんなことは朝日社説を書いた論説委員だって、本当は百も承知なのだろう。

しかし朝日社説は今年7月1日、沖縄の米軍基地があることで起きている問題を挙げ、〈沖縄の現状は危機的と言わざるを得ない〉とまで言っていた。朝日新聞はどちらかと言わず、「基地に反対する沖縄住民」に寄り添う姿勢を取っていたはずだ。

手続き論によって政府批判をしたいだけで、実際に基地は必要だと思っているなら、この際ハッキリとそう言ったほうがいい。でないと、いざという時に朝日新聞が論調の転換を明確にすれば、その時朝日新聞はこれまで煽ってきた基地反対の沖縄世論を裏切ることになる。「過去に捨て石にされた沖縄を再び傷つけるな」と言ってきたのは朝日新聞だ。

「建前論」は通用しない時代へ

いずれにしても、米軍に更なる「活動」の継続を求める朝日の姿勢からは、新たな疑問も浮上する。「米国との共同歩調」を取るために可決した面もある安保法制にあんなに反対していたのは一体、何だったのか? 安保法制があることで、地域の安定に資するとの賛成派の言い分を聞き入れなかったのだ。

〈南シナ海を「対立の海」にしてはならない。シーレーン防衛は本来、国際社会として取り組む課題だ。長期的には、日米豪、東南アジア諸国連合(ASEAN)、さらに中国も加える形で協力しなければ安定した地域秩序は築けない〉

こう述べる〈生煮えの安保法制 衆院採決は容認できない〉と題する社説を掲載したのは、昨年7月14日のことだ。

対立の海にしたのは中国だが、「地域の安定のため」に米軍に「何とかせよ」と言っておきながら、その同盟国である日本(海上自衛隊)が南シナ海の問題に関与することは「抑止だけでは抑えられない」「際限がなくなる」という言い方で反対を説いてきたのは朝日新聞だったはずである。

抑止だけも何も、憲法9条があり、集団安全保障の概念が認められない限り、海上自衛隊が南シナ海の安定に資するのは至難の業だ。ましてや安保法制がなければなおさらだろう。

おそらく朝日新聞は、米軍の活動縮小により自衛隊の活動範囲が広がるのが嫌なのだろう。たとえそれがアメリカ一国の国益を求めた行動ではなく、国際社会の安定に資するものであったとしても。自衛隊が行くくらいなら、もっと米軍を出せということだ。それは朝日が反対してきてきた「地球の裏側=中東・アフリカ」におけるPKO活動だけではなく、「近所」でもそうなのだ。

だが日本が「過去の反省に基づき、軍事面ではひたすら大人しくしていること」が世界の利益だと思われていた時代は終わったのだ。

朝日社説はトランプ氏の言動、政策に不安を抱いているようだが、まずは自分たちの本音と建前の使い分けが、もはや通用しなくなっていることを心配したほうがいい。