【映画評】ガール・オン・ザ・トレイン

渡 まち子

夫トムと離婚し、深い悲しみに沈むレイチェルは、通勤途中の列車の窓から見る幸せそうな“理想の夫婦”の姿を見るのが唯一の楽しみだった。その夫婦を見ては、幸福だった頃を思い出すレイチェルだったが、ある日、理想の妻の不倫現場を目撃してしまう。翌日、電車を降りて彼らの家に向かったレイチェルは、ふいに記憶を失くしてしまう。気が付くとレイチェルは、自分の部屋で大怪我を追って倒れていた。そして間もなく、理想の妻の死体が発見される。レイチェルは、あの日の空白の時間のおかげで、周囲から疑惑の目を向けられてしまう…。

ポーラ・ホーキンズの小説を基にしたミステリー「ガール・オン・ザ・トレイン」。電車の窓から見た不倫現場、その後の殺人、事件に巻き込まれる主人公…というと、何やらヒッチコックの「裏窓」を連想してしまうが、全編を漂う不穏な空気と思いがけない展開は、むしろ「ゴーン・ガール」に近いかもしれない。事件の関係者の思いがけない秘密が次々に露見する展開は、ミステリーのセオリー通りだが、本作がユニークなのは、ヒロインのレイチェル自身が非常に不安定なキャラクターだということだ。

夫との離婚で悲しみに沈む彼女は、アルコールに溺れ、自分や他人に嘘をつき、時に記憶障害(ブラックアウト)になるほど情緒不安定である。素人探偵が真相を究明し犯人を捜すというスタイルを取るミステリーだが、もしかして自分が犯人なのでは…という疑惑がレイチェルをより不安定にさせている。主人公がネガティブな上に、不倫、離婚、ストーカー、暴力に殺人と、これでもか、と言わんばかりのドロドロ状況が続くのだが、終始虚ろで悲しげな表情のエミリー・ブラントが怪演に近い熱演をみせて素晴らしい。他の女優陣も皆好演で、不誠実で信用ならない男性キャラという設定と相まって、ユニークな女性映画に仕上がっている。暗いミステリーだが、ラストの衝撃的な決着の付け方は、女性なら、カタルシスを感じてしまうはずだ。ヒロインの心理状態を映すかのような、どんよりと暗く冷たい空気を映した映像が出色だった。
【75点】
(原題「THE GIRL ON THE TRAIN」)
(アメリカ/テイト・テイラー監督/エミリー・ブラント、レベッカ・ファーガソン、ヘイリー・ベネット、他)
(不穏度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。