蓮舫VS小池百合子 〜「真田丸」から連想した2人の格の差

新田 哲史

明暗が分かれた2人の「女性首相候補」(産経新聞より引用)

どうも新田です。12月上旬に、2冊目の著書となる「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」をワニブックスさんから出すことになりました。「初の女性首相候補」として注目を集めてきた2人ですが、かたや二重国籍問題で迷走、かたや都知事選で快進撃ということで、その明暗が分かれた経緯をネット世論やメディアの視点で分析してみました。

書籍の露骨な宣伝ばかりしていると、池田に怒られますので(汗)、当面、関連の政局記事ではアゴラ向けに付加価値の付いた投稿をしてまいります。なお書籍では、新聞記者時代のように真面目モードで書いておりますので、ご安心ください。以下、その形にシフトしますね。

蓮舫氏が「真田丸」のアノ人にかぶって見えた

新刊で蓮舫氏と小池氏の実力差を分析したが、アゴラ向けに書籍と違う切り口をどう探すか思い悩みながら、「真田丸」を見ていると、蓮舫氏を想起させる登場人物がいた。

ドラマは終盤のクライマックス、大坂の陣に突入している。先週は、1年間で最大の見せ場である真田丸の攻防戦が描かれ、徳川の大軍は城攻めでよもやの苦戦。そして今週は、徳川家康が真田信繁(幸村)に10万石を餌に調略を仕掛けるなど、攻め手を変えてきた。家康はイギリス製のカルバリン砲(大砲)を投入し、天守近くの茶々(淀殿)の居場所を目掛けて砲撃。渡り廊下を通過中の茶々は一命をとりとめたものの、侍女二人が崩落した屋根の下敷きとなって犠牲になった。

ドラマでは、徳川方と通じる織田有楽斎らが豊臣秀頼に勧めた和睦の話を茶々が蹴ったが、史実では、砲撃をきっかけにして両軍は和睦に入っている。来週のドラマでは、よもやの砲撃で泡を食った茶々が和睦に傾いていく話になるようだが、 “女城主”の意思決定が右往左往する様を見ていると、このほど、30年ぶりに野党第1党の党首になった蓮舫氏の昨今を思い浮かべてしまう。

砲撃で破壊された大阪城と、恐怖にすくむ茶々ら(NHK大河ドラマ「真田丸」公式サイトより引用)

茶々と蓮舫氏に共通する弱点

「失敗の本質」などの戦略書でも指摘されて久しいが、戦局を劇的に変化させるのに、あるプレイヤーが、それまでの戦いのルールを変えるような戦法を持ち込んでくる場合がある。

大坂冬の陣で戦端が開かれた当初、武士たちは刀や槍で白兵戦を行い、あるいは飛び道具として弓矢や鉄砲を使用する。つまり、基本的に戦国時代のスタイルで戦われていた。真田丸の攻防戦もその枠組みの中で戦われ、信繁の知略はその中で発揮されていた。

しかし、徳川方がヨーロッパ製のカルバリン砲による攻撃を持ち込み、戦国時代から連綿と続いてきたバトルゲームのルールは覆されてしまう。それまでの城郭の戦闘は、城主の立て籠もる本丸にたどり着くまで、大手門をぶち破り、三の丸、二の丸といった曲輪ごとに一進一退の攻防を繰り広げていたわけだが、カルバリン砲によって、城郭の外側から直接、天守を砲撃することが可能になった。

もちろん、天守だけを破壊したからといって、籠城側が降参するわけではないが、それまでの籠城戦の常識を覆された守備側の心理的衝撃は、相当なものだったろう。史実でも、茶々の侍女が砲撃で死んでおり、彼女は狼狽したはずだ。実際、その後、和睦へと流れが動いている。家康の砲撃が「ゲームチェンジ」となり、茶々に心理的ダメージを浴びせ、戦局を大きく変えた。その後の豊臣家の行く末は皆が知るとおりだ。

翻って蓮舫氏。代表選挙中の戦い自体は、従来型の選挙戦であり、戦国時代に例えるなら刀や槍を使った白兵戦だ。その中で戦う相手は、前原陣営、玉木陣営はもちろん、時に厳しい論評をしてくるマスメディアの記者たちも局面によっては対峙せねばならない。ただ、8月中旬までの蓮舫氏は順風満帆で、既存のゲームでは楽勝の情勢だった。しかし、8月下旬、アゴラで八幡和郎氏が二重国籍の疑惑を指摘してから、雲行きがおかしくなる。

八幡氏、池田信夫の分析と追及、そして、それに呼応したネット世論が、蓮舫氏の国籍を巡る過去の発言を載せた記事を次々に発掘。「自分は台湾籍」と雑誌に話していた記事などが続々とネット上にアップされた。蓮舫氏は大手のネットメディアでのインタビュー等で反論を試みるも、台湾の国籍離脱者を検索できる台湾政府の公式サイトに、その名がなかったことなどから追い詰められ、最後は台湾籍が残っていたことを認める。ネットという「伏兵」の奇襲。それも二重国籍が暴かれてしまったことは想定外。代表選では勝ったものの、発言が二転三転したことで狼狽は明らかだった。

疑惑の指摘を正面から受け止めず、リーダーの資質に疑義を呈された蓮舫氏。回復する見込みだった党勢も伸び悩み、10月の2つの衆院補選はともに惨敗した。新潟知事選では一矢報いたが、推薦を出さずに自主投票で臨み、選挙終盤になって突然現地入りして、反対していた連合を怒らせるなど、ちぐはぐな対応だった。いわば代表戦の政局ゲームに「ネット世論」というプレイヤーが割って入った新局面に翻弄されっぱなしだった。

指揮官がゲームチェンジに翻弄された点で似ているのは気のせいだろうか。面従腹背の所属議員も少なからずおり、民進党は、大坂冬の陣を終えたばかりの大阪城を彷彿とさせるようで、来たる夏の陣(=解散総選挙)で乾坤一擲の反撃なるのか、正念場はこれからだ。

蓮舫氏と小池氏を経営者のタイプにたとえると…

「初の女性総理候補」として、よく引き合いに出される小池百合子・東京都知事。蓮舫氏と比べると、リーダーの素質という点で、2人はいくつか決定的に違う点がある。新刊を書きながら思ったのが、まさに、ゲームチェンジの局面、つまり、それまでと戦い方のルールがガラリと変わったりした時の対応、あるいは、自分から新しいルールを設定するという点で、小池氏の力量が上回っていると言わざるを得ない。

今夏の都知事選。終わってみれば小池氏は圧勝だったが、選挙スタート時、自民党都連の推薦をもらえず、政党や大型の業界団体のような組織的バックアップはなく、基礎票は全くの未知数。もっとも悲観的なシナリオでは、当選ラインの200万はおろか、100万票に到底届かない、とさえ見る向きもあった。しかし、自民党都連を敵に回して「都政や都議会はブラックボックス」などと対立構図を煽り、持ち前の広報手腕をフル回転。大政党の候補者を相手にメディア選挙を制した。

小池氏が都知事の座に座るまでのプロセスは、大政党の中でキャリアを積み、組織と地位を手に入れて上り詰めるという順当なパターンとは全く異なる。当然、落選すれば全てを失うリスクも取った上で、リターンを取ったわけだ。ビジネスで言えば、ゼロから新規事業を起こす「非定型」なことも厭わない、ベンチャー経営者のタイプだ。

一方、野党第1党にのぼりつめた蓮舫氏は、前任の岡田氏に禅譲された格好。いわば順当に組織内で「昇進」したサラリーマン型経営者といえる。こうした経営者は、組織の規律に縛られている分、「定型」を外すような行動はしないし、リスクも取らない。しかし、市場のルールが変わった時の対応力の弱さはよく指摘される。

考えてみれば、2人の歩みは今日を想起させる。小池氏はカイロ大学卒という異色の経歴で、テレビの世界ではレポーターから報道番組のキャスターにのし上がった。政治家としてのキャリアのスタートも新興のミニ政党の日本新党。お飾りのタレント候補ではなく、党の広報戦略を一手に担い、政界で斬新な仕掛けを数々してきた。

蓮舫氏は芸能界から世に出て、20代後半から台湾のルーツをいかした国際派のキャスターとして報道の世界にシフト。北京留学も経験するなど、彼女なりにキャリアアップの努力は重ねているように見える。しかし政界転身は、すでに野党第1党だった民主党からのオファー。タレントとしての知名度を活かしやすい参院選東京選挙区での出馬だった。民間でいえば、2番手企業から一芸採用され、出来上がった組織の階段を上ってきたようなものだろう(もちろん、それはそれで偉業ではあるが)。

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歴史やビジネスに強引にたとえたので、本稿は粗雑な面はあったかもしれないが、書籍の方は、ジャーナリズムとマーケティングの視点から、しっかりと書いたつもりだ。

民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。アゴラで今夏好評だった都知事選連載の加筆、増補版も収録した。

アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。

2016年11月21日
新田拝