11月8日、アメリカ大統領選挙が投開票された。ドナルド・トランプの勝利だった。このニュースは、世界中を仰天させた。もちろん日本にも大きなショックを与えた。アメリカ国民の現状に対する不満が、予想以上に強かったということだろう。だからこそ、多くのアメリカ人が、トランプが現状を変えてくれるのではないか、という期待を抱いたのだ。
アメリカという国は、いったいこれからどうなるのか。トランプはミシガン州で勝利している。ミシガン州一帯は、「ラストベルト」、いわゆる「さびついた工業地帯」だ。かつて、デトロイトの自動車産業など、製造業で栄えた。だが、主要産業が次々と衰退していき、いまは不景気にあえいでいる地域だ。
その不満が、トランプへと流れたのだろう。トランプは、小型車の製造を全面的にメキシコの新工場に移すと発表したフォードを非難した。「工場を復活させる」とトランプは主張している。しかし、工場が出て行ったのは、そもそも賃金やコストの問題があるためだ。根本的な問題をかえりみず「復活」をうたうトランプの主張は、本当に実現可能なのか。
TPP(環太平洋経済連携協定)についても、トランプは反対している。この協定で、さらに国内産業が国外に流出してしまうというのだ。だが、アメリカは「輸出大国」である。グーグルやアマゾンといったIT産業、それに農業や金融などもそうだ。TPPに批准しないことは、アメリカ全体にとってはマイナスなのだ。
またトランプは、法人税を現在の33%から15%に減らす公約を掲げている。同時に、公共事業で経済を活性化するとも言う。これもまた矛盾している。ウケのいいことを平気で語るペテン師を、アメリカは大統領にしてしまったのではないか。
今後、トランプが、どのように政策を実現していくのか。アメリカを、どう変えていくのか。彼が「ペテン師」なのか、「冷徹な取引の名手」なのか、まずは見極めることが肝要である。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年11月21日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。