「トランプ」と呼び捨てたオバマ氏

幾分かぎこちない表情の2人(BBCより引用:編集部)

オバマ米大統領が今月、8年間の任期の終わりを控え、最後の欧州歴訪(ギリシャ、ドイツ)をした時だ。ドナルド・トランプ氏が次期米大統領に選出された直後だっただけに、欧州政界では米国の動向に強い懸念の声が聞かれた。そこでオバマ大統領は欧州で「米国は変わらない」というメッセージを送り、同胞の欧州諸国の米国への不信を払しょくするために腐心した。

ちょっと皮肉なことだが、オバマ大統領は8年前、「チェンジ」をキャッチフレーズにホワイトハウス入りした大統領だったが、離任を間近に控え、今度は米国は「チェンジしない」ことをアピールするために欧州入りしたわけだ。

ところで、オバマ氏がトランプ次期大統領に対して決して好ましい印象を持っていないことは明らかだ。クリントン氏を支援する選挙集会ではオバマ大統領は政治経験のないトランプ氏をあからさまに酷評してきた。

そのオバマ大統領がトランプ次期大統領への政権移行をスムーズにするためにトランプ氏をホワイトハウスに招き、初会合した時の写真を見たが、オバマ氏の表情はやはり硬かった。

オバマ氏は「ジョージ・W・ブッシュ氏(任期2001~09年)から政権を引き継ぐ時、ブッシュ氏は政治信条や選挙戦のいがみ合いなどを忘れて政権移行の作業をスムーズにしてくれた。トランプ氏に対して私も同じようにしたい」と表明している。

一方、トランプ氏はオバマ大統領と会談後、現職大統領に敬意を表している。そればかりではない。オバマ大統領の医療保険制度改革(通称・オバマケア)に対しても選挙戦の主張を和らげ、「一部修正しながらも継承していきたい」と述べているほどだ。

ところで、オバマ大統領はベルリンでは独週刊誌「シュピーゲル」のブリンクボイマー編集局長と独公共放送(ARD)のソニア・ミキチ編集局長とのインタビューに応じているが、そこでトランプ次期大統領の話になると、「Mr Trump」、「President-elect」と呼んでいたが、一度だけ「Trump」と敬称なく呼び捨てている。これはシュピーゲル誌最新号(11月19日号)が編集後記で明らかにしている。

普段は規律ある人間でも時には本音が飛び出してくる。オバマ大統領もトランプ次期大統領に対して、自身の8年間の政権の成果を破壊する危険な政治家と考えているはずだ。無意識のうちに「トランプ」と呼び捨てが飛び出したのだろう。

いずれにしても、オバマ氏が後任の大統領に選出されたトランプ氏を呼び捨てることは本来、好ましくない。なぜならば、トランプ氏は45代目の米大統領に就任する人物だ。礼を欠くべきではない。

ちなみに、日本の歴代首相は米大統領と愛称で呼び合う関係を願ってきた。その傾向は中曽根康弘首相(任期1982~87年)とロナルド・レーガン大統領(当時)が「ロン」と「ヤス」の愛称で呼び合った時から始まったのだろう。オバマ氏と安倍晋三首相との関係が愛称で呼び合う関係まで親密だったのかは知らない。

蛇足だが、政治舞台裏のやり取りや閣僚の人物評を現職中に暴露したオランド仏大統領に対し、パリの政界ではブーイングが聞かれる。政治の世界でも規律と礼を欠けてはならないわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。