米大統領選挙でのトランプ氏の勝利は当初、金融市場では危機感を持って迎えられた。それが急速に期待感に変化したところが面白い。日経平均株価の日足チャートなどを確認するとわかるが、反発トレンドがいったんトランプ氏の登場で崩れかかっていたものが、再び上昇トレンドとなった。そもそも何かのきっかけで株高、ドル高の動きが生じやすい地合であったといえる。
ドル円の上昇ピッチが速いこともあり、急激な円安が進行したかに思えるが、水準からすれば今年2月につけた120円台にすら戻っていない。今年初めからの中国など新興国の景気減速と原油価格の下落で、いわゆるリスク回避の動きが金融市場で急速に強まった。これを受けて日銀は1月に慌ててマイナス金利政策を講じることとなる。
このリスク回避の動きは、英国のEU離脱という新たな要因を受けてからピークアウトすることになる。トランプ氏の勝利もそのリスク回避の動きを強めるとの観測もあったが、むしろリスクオフではなくリスクオン、つまりリスク回避の反動を加速させる要因となった。
これは表面上はトランプ氏の経済政策などへの期待がある。しかし実際に大統領選挙の時の発言内容をすべて実行に移せるかは疑問である。それでも大きな変化が生じるであろうことも確かである。それを最も敏感に反映したのが米長期金利の上昇かもしれない。
英国のEU離脱あたりまで、世界的なリスクとなる要因が次々と出てきたことや、原油価格の下落なども背景に、物価は上がりにくい状況が日米欧の先進国で継続していた。日本のデフレ病が欧米にも拡がったとの見方も出ていた。日欧の中央銀行が非伝統的な金融政策をこれでもかと続けていたことも、日米欧の長期金利を押さえつけた。
ところがトランプ氏の登場はこういった世界的なデフレ圧力の後退を予感させることとなる。ここには原油価格の底打ち感などもあった。米国の雇用情勢をみてもかなり景気の改善が伺えるところに、日米欧の金融緩和もあってのいわゆる「高圧経済」と呼ばれるような環境となりつつある。
そこに米国が積極的な財政政策を行うとの期待が加わり、インフレ圧力の強まり、さらにFRBの正常化が急がれる可能性が意識され、財政悪化懸念も加わっての米長期金利の上昇となった。これが日欧の長期金利にも刺激を与えた。
このまま世界的なリスク回避の調整が起きるとなれば、異常とされる日米欧の金融政策にも当然変化が出てしかるべきである。つまり積極的な金融緩和によって支えられていた面が強かった新興国の株価や通貨がピークアウトすることとなる。トルコ・リラとインド・ルピーは対ドルでともに過去最安値を更新した。
トランプ氏の登場は結果として金融市場にとっては良いニュースとして捉えられたが、事前に言われていたような米国の保護主義に傾斜する懸念は当然残る。これについてはあるエコノミストからこれもデフレ解消要因となりうるとの指摘があった。つまり、これまでの各国の努力が積み重ねてきたグローバル化の動きの流れが変わることとなる。グローバル化は関税障壁などを取り払うことである意味、デフレ要因となっていた。しかし、その動きが反対方向に向かうとなれば、それは結果としてデフレ解消要因ともなる。
保護主義が台頭しているのは米国だけではない。世界的な流れでもある。欧州でも12月のイタリア国民投票や、来年のフランスやドイツの選挙の結果次第でそれが強まる可能性もある。
個人的にはトランプ氏はあまり好きではないし、怖さも感じる。保護主義の流れは大戦前を思い起こさせる。それでも来年以降、世界の政治情勢が大きく変わってくることは避けられない。結果としては世界的なデフレ化からの脱却の流れになる可能性があり、それは少なからず日本にも影響してくることが予想されるのである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年11月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。