ASKA逮捕。自分で110番したのは「異例」ではない

毎日新聞より引用(編集部)

昨日、突然飛び込んできた衝撃的なニュース。
歌手のASKAさんが、執行猶予中に薬物を再使用したとのこと。

まだ容疑の段階であり、ASKAさんは強く否認しているとのことですので、詳細は不明ですが、一連のマスコミ報道には強い違和感を抱いております。

まず、ASKAさんが自分で110番したことについて、あるTV番組などでは「異例中の異例」などと報道していましたが、これは覚せい剤事犯では、非常によくあるケースです。

ASKAさんの再使用の真偽はまだ定かではありませんが、一般論として、覚せい剤事犯が110番通報する多くは、以下のようなパターンがあります。

まず、覚せい剤乱用の幻覚妄想から、「警察に追われている」という考えにとりつかれるパターンです。
例えば、ある経験者の話によると、「警察から射殺命令が出された」と思いこんでしまったそうです。
そこで、警察に行って、「俺、なんで射殺命令が出されているんですか?」と、聞きに行ったそうです。

また、ある人は「俺は、覚せい剤しかやってないのに、なんで追われてるんですか?」と文句を言いに行ったそうです。

すると警察官の方は、薬物事犯に慣れていますから、「そうか、大変だね。じゃあまず、おしっことろうか・・・」ということになって、尿検査され逮捕されるというパターンがあります。

またもう一つよくあるタイプは、
「誰かに追われている。」「盗聴されている。」「見張られている」
だから助けて欲しい・・・と言って警察に駆け込む場合です。
いずれも薬物の幻覚妄想ですから、挙動不審な点があり、尿検査され逮捕に至ります。

いずれも2日位経って、薬が切れると「しまった!」と思うそうですが、その時は既に逮捕されています。

今回のASKAさん逮捕では、110番通報やワイドショー放映中のブログ更新などの行動が、さも重症で、奇行に走っているように取り上げられていますが、短期間の間に再発していたとしたら、重症であるかもしれませんが、再起不能な特殊な事例というわけではありません。

前述した経験者の方々も、服役が数回に渡った場合でも、今は、回復し社会人として就労し生活しています。
ですから、現在の「ASUKA容疑者は、こんなに重症だ!」と煽るような報道は、実情にそぐいません。

ましてや追いかけ回し、社会的に抹殺しようとするのではなく、ここからもう一度、回復の道に繋がれるよう、司法関係者や支援者が連携を作り、そしてマスコミの皆さんも協力し、ASKAさんの回復に適した、静かな環境を提供することが大切ではないかと思います。

また、ASKAさんは、病院で治療を受けたり、回復施設にも1ヵ月ほど入寮したりと、薬物依存症の治療プログラムを受けていましたが、そのことを取り上げ「最新医療も効果がなかった」などと書かれていた所もありましたが、依存症の治療プログラムとはそのように、白黒はっきりつけるものではありません。

プログラムにすぐにのれる人と、なかなかうまくのれない人がいて、回復するまで、再発を何度か繰り返し、もがき苦しむ人もいるのです。

だからと言って、なかなか結果を出せない途中経過の段階で、再発してしまったら全くの無駄かと言えば、決してそうではなく、失敗の経験もまた必要なのです。

何度か失敗した上で、
「あぁ、もう自分一人ではやめられない」と、周囲の人間、支援をしてくれる団体や仲間達に、素直に「助けて欲しい」と認めることができて、やっとプログラムが効いてきた・・・
というパターンは往々にしてあります。

むしろASKAさんは前回の逮捕で、「もう絶対に薬には手を出しません」と声明を出していることから、自分が薬物依存症に罹患していると腹落ちしておらず、心のどこかで「強い意志でやめられる」と思っていたのかもしれません。

いずれにせよ、もし再発していたとしたなら、ここから治療をやり直すしかありません。
マスコミの皆さんは大騒ぎしておられますが、依存症の再発はそれほど珍しいものではありません。

どうか過剰な煽り報道は控えて頂き、薬物依存症からの回復を、暖かく見守って欲しいと願います。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2016年11月29日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。