グローバル経済というと聞こえは良いですが、要は世界規模での「中抜き」です。悪意を持った言い方をすれば「搾取」です。ユニクロの柳井さんは時代の寵児で、グローバリズムの終焉ムードが高まる今、ユニクロへの風当たりが強まっているのもある意味必然です。
資本主義経済の初期は、まだマーケットの規模が小さくて、売り手と買い手が同じ地域にいて、おぼろげにもお互いの顔が見えていました。日本で言うと60年代ですね。私も母親に連れられて、近所の農家に卵を買いにいった思い出があります。しかし、市場原理が働いていくと、より安いモノを売る生産者のみが生き残っていきます。安くものを売る力の源泉は、規模の効率性でした。そこで、全国統一のナショナルブランド、例えばトヨタやソニーや山崎パンが大規模な資本を投じて、最先端の機械を入れて工場を拡張して、ナショナルブランドを形成していきます。1970年頃の高度資本主義経済ですね。
ところが1990年代後半から、金融の自由化とIT革命を原動力とする経済のグローバル化が進行しました。カネや情報が世界を自由に飛び交うようになると、製造業の生産性はもう一つ天井を抜けて、飛躍的に向上します。その要因やもちろん、世界共通市場化による規模の効率性もあるのですが、それよりは、先進国の工場を閉じて、途上国の安い労働力を使ってモノを作り、先進国の消費者に売る、つまり(先進国の労賃ー途上国の労賃)の差額を稼ぐことにありました。イノベーションというよりは単なる「中抜き」ですね。ユニクロはその象徴です。規格化した製品を中国で縫製し、日本に流すという。「安くて良いもの」を手に入れることができて、それは消費者はハッピーになりますよね。
かくいう私も10年前はユニクロモデルを信奉し、フリースや靴下をまとめ買いしたりしていました。でも、だんだんと国民は違和感を抱くようになったんですね。なんかおかしいんじゃないかと。その違和感の源泉は何かというと、柳井さんが世界的大富豪に登り詰める一方で、従業員は安い賃金で酷使されている。いわゆる格差社会ですね。ネット社会ではそういうことが情報として入ってくるんですよね。これじゃあ現代版蟹工船じゃないかと。そして、自分や子供の将来を考えると、じり貧じゃないかと。いくら安くても、結局廻り回って自分たちの首を絞めて要るんじゃないかと気づいてしまうわけです。
そんな資本家にお金を献上するくらいなら、古き良き体制がましじゃないかと。日本は民進党がダメダメだし、安倍政権はそこそこ頑張っているんで、政権打倒運動にはなりませんが、根っこではトランプを次期大統領に選出した米国白人層と同じなのじゃないでしょうか。
きっと柳井さんはこう反論するでしょうね。「古くて生産性の低い衣料・流通業を革新したのは俺だと。これこそがイノベーションじゃないかと。」でもですね。その時の第三次産業の多くは自営業で、家族でなんとか食いつないでいたわけですね。生産性が低くても地域共同体が成立していました。
企業であっても多くは正社員で、長期雇用・年功序列という日本的雇用慣行の下で、少ない実入りを分け合って生きていました。その時の経営者は例えば土光敏夫さんのように清貧でそんなに役員報酬を得ていませんでした。だから、柳井さんが株式で大富豪になる一方で、正社員どころか派遣労働者が疲弊しているのを見るとしらけてしまうんですね。そんなに儲かってるんなら、少しは従業員に還元しろよと。なんなら、商品が少し高くなってもいいからフェアにやれよと。私は、これがユニクロの不調の根本原因であると思うんですね。ワタミも同じですし、マクドナルドの元CEO原田さんへの反発もそうですね。
だから、そろそろグローバリズムを終わりにして、搾取されないフェアな労働システムを作っていくしかないと思います。
現在の労働基準法はざるなので、残業を基本的に禁止にするか、残業時の時給をすくなくとも2倍にする。
その上で、サービス残業をなくす。善良で集団指向の高い(悪く言えば同調圧力が高い)日本人は、自分から「帰りたい」とか「有給休暇取りたい」とか言えないので、徹底的に見える化する。外圧を使うのです。「見られているから仕方が無いから帰るか」と。
IoT社会では簡単なことです。例えば、従業員のスマホにアプリをいれて、外部から、リアルタイムに「誰が、どこで、何時間働いているか。協定違反がないか」地図上で表示し、ログを残せるようにする。大島てるさんの事故物件サイトのリアルタイム版ですね。
異状があれば(例えば異常に労働時間が長い人が働いていたりすると)、赤や黄色が、地図上の会社のビルにドットとして点滅するようにする。霞ヶ関や大手町を歩いているとそこら中のオフィスがピコピコ点滅して、「お、○○銀行真っ赤だよ」「ユニクロ○○店、平均労働時間16時間だよ」とかお客さんに見えるようにする。政府はマイナンバーを強制的に振り付けたのだから、そのくらいはすべきですね。で、学生は会社訪問も良いですが、深夜にオフィス近くに近づいてにそっとアプリを開いてみて、リアルな労働時間を自分の目でチェックする。もちろん、プライバシーの保護処理などはさして難しいことではありません。
労働基準局や厚生労働省自身がブラック職場だというのはシャレにもなりません。見える化、透明化、集団監視体制の構築が最適解です。Welq問題なんて、ネットの力で問題が顕在化してから、3日で解決したじゃないですか。これこそ本当の市民の力です。二枚舌を使って、いやといえない善良な日本の労働者を中抜きしているブラック企業を駆逐しましょう。