トランプ政権を迎え撃つ我が国の覚悟

長島 昭久

Wikipediaより(編集部)

「不動産王」転じて「暴言王」と称されたドナルド・トランプ氏が激戦の米大統領選を制すると予測できた人は世界中でもほんの一人握りではなかったでしょうか。すでに、保護主義が加速するのではないか、欧州に暗い影を落としている排外的な政治勢力がますます台頭するのではないか、第二次大戦後にアメリカを中心に構築されたリベラルな国際秩序が崩壊するのではないか、などなど有識者を中心に世界中で懸念が広がっています。我が国でも、ヒラリー・クリントン女史の勝利を前提に組み立てられてきた安倍外交が、肝心のTPPと日露関係で大きく変調を来しています。

とりわけ、日米同盟の行方が気懸りです。2009年に起こった日本の政権交代でも日米関係が安定するのに約1年かかりましたが、今度は全く新しいタイプのアメリカ大統領の登場(8年ぶりの共和党政権という以上に、政治家でもなく軍務経験も持たない史上初の大統領の誕生)ですから、日米同盟の基本構造に大きなインパクトを与えることになるのは明らかです。現に、選挙キャンペーン中には、米軍の駐留経費負担や日本の核武装、防衛費などをめぐって歴代米政権とは全く異質の見解が示されました。

しかも、巷間伝えられるところによれば、選挙後に会談したヘンリー・キッシンジャー博士はトランプ氏に対し「中国とのグランド・バーゲン」を働きかけたといいます。その意味するところはハッキリしませんが、ニクソン政権で同盟国の頭越しに電撃的な米中和解を実現させたキッシンジャー博士の発言だけに、これまでのアジア太平洋地域における国際秩序の根幹を揺るがすような「変化」が起こる可能性を覚悟せねばならないでしょう。最近のインタビュー記事で「同盟関係を考え直す必要がある」と明言しているキッシンジャー博士だけになおさらです。

政権の中枢であり対外関係を取り仕切る国務、国防両長官がいまだに決まっていない段階でトランプ政権の外交・安全保障政策を予測することは困難です。しかし、キッシンジャー博士の言葉があろうがなかろうが、日米同盟が真に試されるのは対中戦略をめぐってであることは自明ですから、我が国のNSC、外務、防衛当局は一刻も早くトランプ次期政権のカウンターパートと的確なコミュニケーションを図る必要があるでしょう。

その意味で、私が10月上旬に4時間にわたり懇談したマイケル・フリン次期大統領補佐官(国家安全保障担当)の役割は重要です。彼は、ロシアのプーチン大統領と直接のパイプを持ち、米国防総省の情報トップを務めた将軍ですから、同盟の重要性もアジア太平洋地域の地政戦略にも知悉しており、我が国の外交・安保チームが日本の国益に基づく戦略方針をインプットするには最適の人材だと思います。私も国会が閉会したら、さっそくフリン将軍やその他の次期政権中枢と意見交換するため、ワシントンへ足を運んでこようと思っています。

その際大事なことは、日本は、これを機に、独立自尊の精神に立脚して、日米同盟の基本構造、アジア太平洋地域の平和と安定と繁栄の秩序づくりにおける自国の責任と役割について、今一度ゼロベースで考え直す必要があるということです。いつまでもアメリカに依存した姿勢で乗り切れるほど今後の国際環境は甘くないと腹をくくり、トランプ新政権と対等の立場で同盟戦略を再構築していくのです。

その際には、日米間で不均衡となっている同盟の基本構造、すなわち日米安保条約の第5条と第6条の見直しも視野に入れた息の長い協議を覚悟すべきでしょう。既成概念にとらわれないトランプ大統領の登場により、対米依存で膨らむ米国の有事リスク(第5条)を過剰ともいえる日本の平時コスト(第6条)で補完してきたこれまでの同盟構造を変革する好機が到来したともいえるのではないでしょうか。


編集部より;この記事は、衆議院議員の長島昭久氏(民進党、元防衛副大臣)のオフィシャルブログ 2016年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は長島昭久 WeBLOG『翔ぶが如く』をご覧ください。