早稲田を卒業してホストで成功した男の“人間関係構築術”とは

尾藤 克之

写真は信長氏。ブログより。

「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻のごとくなり」。「平敦盛」を討ち取って出家した熊谷直実の言葉だが、織田信長が好んで使ったこともよく知られている。「人生は五十年しかないのだから、決死の覚悟で思い切ってやろう」と解することができる。

昨日、アゴラ出版道場でお世話になっている、秀和システムの田中氏から興味深い書籍の献本をいただいた。著者は「信長」である。しかし、この御仁は戦国時代の織田信長ではない。早稲田大学教育学部を卒業し、ホスト業界に身を置いている。

本書は、浮き沈みの激しいホストの世界にあって、長きわたり活躍をしている「信長氏」の人間関係構築術である。過去には、『シャンパンタワー交渉術』(講談社)、『選ばれる技術』(朝日新聞出版)が話題になった。今回紹介するのは、『成功は気にしない人だけが手に入れる』(秀和システム)である。

■よいサンプルを見つけてパクる

デブでダサくて、会話もへ夕なホストでも、売れっ子ホストに変身する秘訣がある。その具体的な方法を明かしてみよう。実は、信長氏は売れっ子になる前はデブでダサかったと自称している。しかし写真を見る限りスマートでイケメンに見える。真偽は不明だ。

「当時もいまも、ホストの多くはスタイルがいいです。そうしたカッコいいホストは、カロリーオーバーにならないよう食事に気をつかっています。また、スポーツジムに通い、自宅でも筋トレなどをして、体を絞り込んでいます。」(信長氏)

「デブだった私は、まずそこから見習いました。職場のホストクラブへ行けば、いつでも日を見張るような「よいサンプル」がゴロゴロいるのだから、ダイエットとシェイプアップに励むモチベーションが低下することはありません。」(同)

体型は、ジムに通い筋トレをしながら食事も節制をすることで見違えるようになることだろう。お手本が身近にいることも刺激になる。

「次に髪刈と服装ですが、これも思わず『ああ、マジでカッコいい』と男の私でも見とれてしまうようなよいお手本がいたので、そのカッコいい先輩ホストが通っている美容院を聞き出し、同じヘアスタイルにしてほしいと頼みました。」(信長氏)

「お手本となるホストがいつも身に着けているシャツやスーツがどこのブランドかということも、すぐに調べ、遠慮なくマネをさせてもらったのです。」(同)

髪型や服装も、お手本となる先輩と同じブランドのものを身にまとうとは。しかし先輩は嫌がらないのだろうか。

「接客術も、売れっ子の先輩がやる、お客さんの肩にそっと手を回すタイミングや、気を持たせるセリフの一つひとつを頭にたたき込み、自分もその通りのことをしてみました。つまりは完全にパクリです。先輩からは、『お前、オレのパクリばっかりしてるじゃないか』と言われても、気にしませんでした。」(信長氏)

「先輩がカッコよすぎるから、ついマネしたくなっちゃうんですよ~と冗談まじりに返せばいいのです。常にマネする機会を伺ってました。」(同)

接客術も、お手本となる先輩のマネとは少々驚きだ。ところが、不思議なことに、「人のマネばかりしているダメ男」と先輩や同僚から嫌な顔をされたことは無かったそうだ。

■人マネは意外にも可愛がられる

私は、信長氏の話を聞きながら、ある社員のことを思い出していた。彼の名前を秀吉君(仮名)としよう。彼は営業部に所属していたがことのほか、上司に可愛がられていた。「あいつは経験不足だが大物になる素質がある」と。また、彼の上司は社内でも風水好きで知られていた。日頃の服装には風水の理論が反映されている。

「初回訪問時の服装はオレンジが基調です。オレンジは緊張感を和らげる効果があります。次の訪問では薄いピンク系の色を取り入れます。ピンクは相手との信頼関係を構築する効果があります。提案の機会をいただいたら、黄色の服装に変えます。黄色は信頼をお金に変える力があります」と、このような具合である。

この、2人が歩いていて目立たないわけがない。客先で秀吉君は上司とまったく同じことを話す。「えっと、オレンジ色にはですねえ~」といった具合だ。しかも服装もそっくりだ。しかし、普通に考えれば嫌な人のマネなどするわけがない。私はあなたをリスペクトしているという好意のシグナルになる。なお、信長氏は次のように述べている。

「オリジナリティ、独創性とかいうものにこだわりすぎる人がいます。たとえば髪型一つとっても、『俺流』に固執していると、割とうまくいかないものです。ならば、いっそ開き直って、よいお手本のパクリに徹した方がいいでしょう。」(信長氏)

「人間五十年」。長いようで短い。『俺流』に固執せず、よいお手本をパクってはいかがだろうか。いい結果を出している人をよく観察して、その言動をそっくりマネしていれば、やがては自分自身のものになっていく。また上司との関係性が構築できて一石二鳥だ。

本書の事例はリアリティがあることから、ビジネスパーソンの方には参考になるだろう。人間関係構築の正しい道筋を見つけられるかもしれない。

尾藤克之
コラムニスト

アゴラ出版道場、第1期の講座が11月12日(土)に修了しました。12月からは毎月1度のペースで入門セミナーを開催します(次回は12月6日開催)。

なお、次回の出版道場は、来春予定しています。