二重国籍問題は言及されるのか?いよいよ明日、初の党首討論

新田 哲史

首相官邸サイト、民進党サイトより引用

蓮舫氏の二重国籍問題を追及してきた我々としては、非常に注目したい。あす12月7日、安倍総理と蓮舫氏による初めての党首討論が行われる。11月末になって決まったものだが、蓮舫氏とアゴラの“攻防戦”を振り返った拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)の発売の前日になるとは、なんというタイミングであろうか。

先日の定例記者会見で「胸を借りるつもりで、チャレンジをさせていただく」と心境を語った蓮舫氏。すでに、10月5日の参院予算委員会、そして11月24日の参院TPP特別委員会で「前哨戦」は行われているが、それらの経緯、そして蓮舫氏が会見で述べた内容から、「年金」「カジノ」「TPP」あたりを争点に仕掛けるとみられる。

ただし、党首討論は、ほかの質疑と違い、何を取り上げるか詳細までは事前に通告しない慣習になっており(参照:元官房副長官・松井孝治氏のFacebook)、アドリブの制約はより少ない。あくまで、ひょっとしたらの程度ではあるが、二重国籍問題について言及される場面があると見応えが出てくる。

「剛」の蓮舫 VS「柔」の安倍!?

これまでの蓮舫氏のパフォーマンスからすると、ロジカルとファクトを緻密に組み上げる、いわば「左脳型」のアプローチというよりも、勝負どころでエモーショナルに観ている側に訴えかけることも辞さない「右脳型」の印象が強い。

TPP特別委での質疑では、総理がトランプ氏と会談した際の手土産について、蓮舫氏は、ゴルフクラブではなく、日本製で世界の6割の市場シェアを占める自動車の点火プラグを持って行っていくべきだったと主張。「日本からの粗悪な格安輸入品がアメリカの雇用を奪っている」的なトランプ氏の誤解を解くべきだった、という面白い提案をしていたが(出典;産経新聞)、ほとんど話題になっていない。基本はテレビ映りが国民への印象度勝負を分けるので、報道番組でのハイライトシーン編集を意識し、要所要所で「年金カット法案」といったレッテルを貼ってシャウトしてくる可能性はある。

そのとき、安倍総理が「柔よく剛を制す」とばかりに、戦後歴代4位の在任期間に伸びたばかりのベテランの返しをどう見せるのか。声を荒げるよりは、質問する蓮舫氏サイドにとって不都合な真実を淡々と述べて、しかしジワジワと効果的にダメージを与えるように反撃していく、というのが基本的な流れになるのではないか。

そして、我々が注目する二重国籍問題については、どうなるだろうか。仕掛ける側の蓮舫氏が自らの弱点を取り上げることはないだろうから、言及するとなると、安倍総理からしかない。しかし、デビュー戦から完膚無きまで叩き潰そうとはせず、二重国籍についてはあえて言及しないという「大人の対応」を見せるのが、残念ながら順当なシナリオだ。

総理は二重国籍問題にどこまで関心があるのか?

とはいえ意表をついた筋書きも考えられないわけではない。

肝心の安倍総理のこの問題に対するスタンスはどのようなものか。おさらいすると、二重国籍疑惑が浮上した当初は言及する場面はみられなかったが、自民党の小野田紀美・参議院議員が米国との二重国籍だったことを公表した後から、国会答弁で明言するようになった。

10月13日の参院予算委員会では、自民党の三原じゅん子氏が小野田氏との比較で、国籍選択宣言を明確にしない蓮舫氏の姿勢を批判しながら質問を投げかけたのに対し、総理は「国会議員として蓮舫氏の責任において国民に対し証明の努力を行わなければならない」「小野田氏は戸籍謄本を示し、選択という義務を果たしたことを証明した」などと述べている(出典:産経新聞)。ただ、国会の議場以外の記者会見などの公の場では言及した様子は報じられていない。

しかし、だからといって安倍総理が二重国籍問題に関心が低いわけでは決してない。むしろ静観を「装っている」と我々は見ている。これまでの取材で得た情報では、関係官庁から重要な情報が、官邸に報告されている模様で、総理は、政局の流れを見ながら、この問題の勝負どころを探っていることを窺わせる情報もある。

もし順当な想定シナリオどおり、党首討論で言及がなかった場合、総理の熱烈な支持層は「アンチ蓮舫」が多いだけに、それはそれで「期待」を裏切ることになるだろう。もちろん、それは安倍総理も重々承知したことだろうから、この「ネタ」を年明けに持ち越し、眼前の蓮舫氏よりも優先したい政局上の別の思惑があることになる。

一方、あすの党首討論で二重国籍問題が言及されることがあるとすれば、どのような展開だろうか。いくつかの政策テーマで応酬となり、総理が蓮舫氏に切り返す流れの中で話が飛び出すことが参院予算委での発言などから想起される。それが何のテーマなのか。政治のプロや勘の鋭い読者なら、いくつか思い浮かべるであろうが、楽しみはとっておきたいので、いま書くのは控えておく。

党首討論では初対決となる“32分1本”の真剣勝負。とくと拝見したい。

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民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。アゴラで好評だった都知事選の歴史を振り返った連載の加筆、増補版も収録した。

アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。

2016年12月吉日 新田哲史 拝