今回のOPECによる生産削減合意については、総会直前に露プーチン大統領がイランのロウハーニー大統領に電話したとか、モハマッド副皇太子がファーリハ・エネルギー相に最終指示を出したことが決め手になったとか、興味深いエピソードがいくつか紹介されている。
最後のさいごまで合意に躊躇していたイラクのルアイビ石油相が、11月30日の総会が始まって、合意しそうだとの噂が先物市場に流れ、価格が上昇をし始めたのを見てバグダッドに電話し、アバーディ首相の最終了解を得たのでまとまった、というエピソードも興味深い。
当然のことだがこれら各国の最高意思決定者たちは、自らの独自の情報に加え、それぞれの事務方から必要な情報、緻密な分析と複数の腹案などを得ている。そうでなければ意思決定はできない。
この観点からみて非常に興味深い記事をFTが掲載している。”Saudi Arabia discussed oil output cut with traders ahead of OPEC” (Dec 5, 2016 around 3:00am Tokyo time) という記事だ。副題は “Kingdom sought views on likely market reaction should deal fail” となっている。
筆者の興味にしたがい、要点を次のとおり紹介しておこう。
・消息筋によると、Vitol(世界最大のオイルトレーダー)の原油部門のトップ、Mr. Mark Couling、Andurand Capital(15億ドルを運用する世界有数の石油ヘッジファンド)のMr. Pierre Andurand、さらには露Lukoil傘下のLitscoのオイルトレーダーたちがウィーンに呼ばれ、サウジの代表団と会合をもった、ということが判明した。
・代表団は、もし削減合意に失敗したら、市場はどんな反応をするのかを知るべく、彼らを非公開の会合(private talks)に招集したのだ。
・会合は、総会前日の火曜日の朝、ファーリハ大臣が到着する前に行われた。
・サウジは日常的に、OPEC会合に先立ちエネルギー・アナリストたちに非公開のブリーフィングを行っているが、何百万バレルもの石油を輸送(shipping)したり、先物やオプション取引を行っているトレーダーたちを会合に呼ぶことは、予想できないことではないことではないが、きわめて希なことだ(rarer ,but not untoward)。10年以上もOPEC会合に同席しているある人は、サウジ代表団は、市場の実態をよりよく把握する(get a better feel)するためにこの種の会合を持ったことはある、という。
・この会合は、最後のさいごまで、OPECは合意実現のため往復外交(shuttle diplomacy)を繰り返してはいたが、もし削減合意ができなかったら価格はさらに大きく下落するのではないか、とサウジ代表団が深く憂慮していたことを示すものだ。
・市場は火曜日にはOPECは合意できないだろうと判断し、ブレント原油は4%下落したが、合意したことにより水曜日から金曜日にかけて15%も急上昇した。
・Lukoilにコメントを求めたが回答はなかった。VitolとAndurandはコメントを避けた(declined)。
・Mr. Andurandは、この会合に関するコメントは避けたが、以前のインタビューで、彼は1月以降の価格上昇に賭けており、この見方に変更はない、と言っていた。
・消息筋によると、この会合の場でサウジ代表団は、削減合意ができるかどうか疑問が残っているとして、総会の結論には慎重な見方を示したという。
・サウジの高官は、市場参加者たちと会合を持つことは珍しいことではない、として、今回の会合を特に重視はしていないと、次のように語った。
「これらの討議は、OPEC会合時など通年を通して行っている、アナリストや石油会社、あるいはトレーダーたちとの相談の一部(a part of consultations)に過ぎない」
なるほどね。
筆者もその昔、IEAのブレーンストーミングに呼ばれたことがあった。「テロリストがサウジ東部の油田を破壊したら、市場はどう反応するだろうか」という設問に対する原油トレーダーとしての感触を求められたものだ。同じ場には他にも石油製品トレーダーたちもいた。
情報を収集し、分析し、政策案を作成する事務方は、たえず生の情報を求めて地道に作業を継続しているものなのだ。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月5日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。