30歳の外相に未来を託す国民党

長谷川 良

オーストリアのケルン社会民主党主導連立政権のパートナー政党、国民党はメルケル独首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の姉妹政党だ。党是には本来、キリスト教価値観を掲げた政党だ。その政党が選挙の度に得票率を落とし、野党の極右政党「自由党」の後塵を拝することが多くなった。

▲2016年12月8日、独ハンブルクで開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)閣僚級会議で会談するケリー米国務長官(右)とクルツ外相(オーストリア外務省の公式サイトから)

オーストリア大統領選で同党が擁立した党重鎮アンドレアス・コール氏(元国民議会議長)が第1回投票で5位となり、早々と姿を消したのは、党の現状を端的に反映した結果と受け取られている。

そして大統領選の決選投票では社民党や野党「ネオス」が次々と「緑の党」前党首の左派知識人のアレキサンダー・バン・デア・ベレン氏の支持を公式表明したが、国民党だけは2人の候補者(バン・デア・ベレン氏と極右政党「自由党」のノルベルト・ホーファー氏)の誰を支持するかを最後まで表明しなかった。ラインホルト・ミッターレーナー国民党党首(副首相)は、「有権者が自身で決定できる問題だ。政党がアドバイスする必要はない」と説明した。

ところが、決選投票のやり直し投票日(12月4日)の数日前、国民党のラインホルト・ロパトカ院内総務がTVインタビューで「私はホーファー氏を支持する」と表明。それを聞いたミッテルレーラー党首は、「党の方針を無視した発言であり、党への忠誠を破るものだ」と激怒、直ちにロパトカ院内総務を呼び会談した。「院内総務の意見はあくまで個人のものであり、党を代表したものではない」と述べ、党内分裂のイメージを払拭するのに躍起となったほどだ。

ロパトカ院内総務のホーファー支持表明は確信犯的行為だ。国民党内では、リベラルで無神論者のバン・デア・ベレン氏ではなく、キリスト信者であり、堕胎に反対し、同性婚を認めないホーファー氏を支援すべきだという声も多かったはずだ。

党独自候補者の敗北後、国民党は2人の大統領候補者の誰を支持するかで党内は2分してきた。元党首のエルハルト・ブセック氏や欧州連合(EU)の元農業担当委員フィッシャー氏は「ホーファー氏を大統領にしてはならない」として、バン・デ・ベレン氏支持を個人的に表明したが、彼らは現職ではない。ロパトカ院内総務は国民議会内の国民党クラブ代表だ。党内ランクではナンバー2だ。その人物が党首とは全く異なった見解を堂々と表明したことは、党分裂の前兆といわざるを得ない。

国民党と好対照なのは社民党だ。5月にファイマン首相の後継者になったクリスティアン・ケルン党首はバン・デア・ベレン氏支持を表明する一方、これまで絶縁してきた自由党と接近し、ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首と会談、同党首に対して敬意を表明するなど、将来の連立構想を念頭に積極的な行動を見せている。一方、国民党は社民党との連立政権維持を最大目標に掲げているだけのジュニア政党となってしまった感がある。

それでは「国民党に未来はないか」というとそうともいえない。国民党にはセバスチャン・クルツ外相がいる。問題は彼がまだ若すぎることだ。外相に任命された時が27歳、今年8月で30代に入ったばかりの政治家だ。

クルツ外相は難民政策や外国人問題の統合問題では「自由党」の強硬路線に近い。対トルコ政策では自由党と全く同じだ。トルコのEU加盟交渉の中止をはっきりと主張している。

クルツ外相ならば「自民党」に流れる批判票を奪い返す一方、ケルン首相の社民党と対抗できるのではないか、といった期待が国民党内にある。クルツ外相が国民党の党是であるキリスト教の看板を掛けなおし、伝統的な保守政権として国民党を復活させることができるか、若き外相の言動に注目が集まっている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年12月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。