S・コヴィーの7つの習慣

以前Hiroshi Kaitsuさんという方より、「北尾先生は7つの習慣をどうとらえていらっしゃいますでしょうか」との御質問をTwitter上で頂きました。此の7つの習慣とは、日本でも20年前に発売された世界的大ベストセラー、スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣―成功には原則があった!』を指していると思われます。本ブログでは以下その前提で、私が思うところを簡潔に申し上げたいと思います。

コヴィー博士は、米国「建国以来200年間に書かれた成功に関する著作物を調査」され「成功に関する共通点を導き出」されたというようで、その各々が取るに足らぬ習慣だとは決して思うものではなく、取り分け第1の習慣「主体的である」とは非常に大事なことだと思います。

また第4の習慣「Win-Winを考える」も、相手の立場を思い遣るという「仁」の思想に通ずる重要な事柄だと思います。そして第6の習慣「シナジーを創り出す:多様性を活かし、創造的に協力することで、革新的な解決策を生み出す」に関しても、あらゆる所での多様性追求の中で様々な創造が齎されると考えており、これまた是非とも必要なことだと私は認識しています。

以上、7つの習慣の中で特段の指摘を要さぬ3項目につき述べてきました。次に、コヴィー博士には恐縮ですが、余りピンとこない残りの4項目につき述べて行きたいと思います。

先ず、第2の習慣「終わりを思い描いてからはじめる:行動する前に、自分自身の価値観に基づいた方向性や目的を見出す」では、ショートタームの思考なのか、はたまたロングタームのそれなのか、を意識する必要があります。即ち、世のため人のためという志、言い換えれば、世のため人のためになるような夢の実現を思い描いているかということです。たった1,2ヶ月先、あるいは1年先といった程度の「終わり」であれば、私からしてみると殆ど意味を為しません。

それに続く第3の習慣「最優先事項を優先する」で言いますと、之は当然だと思えるようなことですが、プライオリタイズした後も常に本当に正しかったかどうかと省みるということが為されないことが多いのです。言うまでもなく、優先順位は時々刻々変わり得るもので、色々な事象が起こってくる中で変わらざるを得ないものです。今現在の第1位が3年に亘って同じように、一番であり続けるかは別の話です。従って、状況変化の中でプライオリタイズし直す必要があると考えておかねばなりません。

それから第5の習慣「まず理解に徹し、そして理解される:先ず相手を理解するよう努め、その後で自分を理解してもらうことで、コミュニケーションの質を高める」については、必ずしもそうは行かないものだと思います。相手の理解に徹するということも勿論なければなりませんが、そもそも相手をそう簡単に理解できると認識していること自体、基本間違いではないかと思います。

人の考えている事柄がちゃんと理解できるようならば、苦労することもないでしょう。故に「先ず相手を理解するよう努め」ようなどと考えるのではなく、先ず自分を前面に出し自分の主義・主張・立場を明確にするよう努めるのが、在るべき姿だと思います。

そうやって明確にした中で、相手の自分に対する対応から、相手に対する理解が進むようにもなるわけです。何ら己を明らかにせずして、他者など分かり得ないでしょう。あるいは自分を明確にしたからこそ、例えば相手から何故サポーティングを受けられないか等々を掴み得ることも出来ましょう。寧ろ、そこから考えて自分を理解して貰うよう努めて、「コミュニケーションの質を高め」行くことが大事ではないかと思います。

最後に第7の習慣「刃を研ぐ:肉体・知性・精神・情緒の側面を定期的に磨き、モチベーションと活力を向上する」も、分かったような分からないような話に感じられます。当該テーマの重要ポイントを一言で言うなれば、それは「知情意」をどうバランスさせて行くかということです。そして何時も中庸の世界、あるいは恒の心(常に定まったぶれない正しい心)を持つよう努力することが大事だということです。

知情意全体を統一体としてバランスして行くに当たっては、例えば知に関しても、知を押し通すのではなく知を如何に表現して行くかといったように、知情意夫々の個々の中でのバランスも重要になってきます。東洋では古来、平常心や恒心といったものを涵養して行くことが重要視されてきたのです。

『論語』に「中庸の徳たるや、其れ至れるかな…中庸は道徳の規範として、最高至上である」(雍也第六の二十九)とあるように、中庸という一つのバランスを保って行くのは至難の業であります。しかし我々は知情意のバランスを達成すべく、死を迎えるまで修行し続けて行かざるを得ないのだと思います。

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