「19日月曜日」が毎日続いたなら……

12月19日月曜日は欧州に駐在しているメディア関係者にとって多忙な日となっただろう。同日、数時間の間隔で3件の事件が立て続けに発生したのだ。それぞれ別の国で起ったが、3件ともテロ事件の様相が濃い事件だった。

▲犯行の現場を訪れ、犠牲者に追悼するドイツ政府首脳たち(2016年12月20日、ドイツ民間放送N24の中継放送から)

3件の事件は既に報道済みだから、ここでは事件発生の時間に従って簡単に紹介する。

<12月19日午後5時半ごろ>
スイス最大の都市チューリッヒで19日午後5時過ぎ、一人の男がイスラム教の祈祷施設に侵入し、発砲、同祈祷施設にいた3人のアフリカ出身のイスラム教徒が負傷するという事件が発生した。男は24歳でスイス人。翌日20日、現場近くで男の遺体が発見された。自殺の可能性が高い。

<12月19日午後7時過ぎ>
トルコの首都アンカラで19日午後7時過ぎ、ロシアのアンドレイ・カルロフ駐トルコ大使(62)が男に銃で射殺された。男は駆け付けた警察隊によって射殺された。トルコからの情報によると、カルロフ大使は市内で開かれた写真展開会式のスピーチ中に背後から撃たれた。男は22歳で警察官。犯行時に「アレッポを忘れるな」と叫んでいたことから、男にはロシアのシリア政策に抗議する狙いがあったと推測される。

<12月19日午後8時過ぎ>
ドイツの首都ベルリンで19日午後8時過ぎ、市中央部にある記念教会前のクリスマス市場で1台の大型トラックがライトを消して乱入し、市場にいた人々の中に突入しながら60メートルから80メートル走行。これまで判明しているだけで12人が死亡、48人が重軽傷を負う事件が発生した。事件発生2時間後、トラックを運転していたと思われた男は拘束されたが、同乗者の男は既に射殺されていた。拘束された男は23歳でパキスタン人。2015年12月31日、独国境都市パッサウから難民としてドイツに入国。今年2月以降、ベルリンに住んでいた。ただし、DNA検査などで男がトラックの運転をしていた可能性がないことから、「証拠不十分」として20日夜、釈放されている。真犯人がピストルを保持して逃亡中とみられている。
チューリッヒのイスラム教祈祷施設発砲事件とトルコのロシア大使射殺事件は特定の人物、施設・建物をターゲットとしたテロ事件である一方、ベルリンのクリスマス市場のトラック乱入事件は無差別殺害を狙ったものだ。テロ専門用語でいえば、前者はハード・ターゲットを、後者はソフト・ターゲットを狙った事件だ。

【犯行の背景】

チューリヒ・・・スイスは外国人率が25%を超えるほど多様な外国人が住んで居る。イスラム系移民が増加するにつれ、国民の間でイスラムフォビアが拡大してきた。
アンカラ・・・ロシアのシリア政策に対して反体制派勢力や国際人権擁護グループから人権蹂躙などの批判の声が高まっている。
ベルリン・・・欧州の盟主ドイツはこれまでイスラム過激派テロ事件から守られてきたが、今年7月以降、イスラム過激派によるテロ事件が発生。10月にはベルリンの国際空港爆発テロ計画が発覚するなど、ドイツ国内でテロの危機が高まっていた。

ところで、「12月19日」が毎日繰り返されたならばどうだろうか。実際は、メディアには報道されないだけで世界各地で毎日、上記に類似した事件やテロは起きている。たまたま今年の「12月19日」にメディアが注目する事件が続けて起きただけかもしれない。

ビル・マーレイ主演の米映画「グラウンドホッグデー」(1993年制作、日本名「恋はデジャ・ブ」)では、人気者の気象予報士の主人公は毎朝、同じ時間に目が覚め、その後、前日のシーンが展開される。傲慢で自信過剰だった主人公は次第に覚醒し、前回の失敗や人間関係を修正しながら次の朝を迎えていく。そして、最後は恋を成就するというコメディーだ。

映画の主人公のように、われわれも毎日繰り返される事件から教訓を引き出し、微修正しながら翌日を迎えることができれば幸いだ。いずれにしても、「12月19日」は例外であって、本来、繰り返されてはならない。不安を煽ったり、外国人排斥運動はテロ対策としては決して効果的ではないことは既に実証済みだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。