河野太郎衆議院議員(自民党)は電力業界と原子力・エネルギー政策への激しい批判を繰り返す。そして国民的な人気を集める議員だ。その意見に関係者には反論もあるだろう。しかし過激な主張の裏には、「筋を通せ」という、ある程度の正当性があり、彼の言葉に一定数の支持が集まる。主張の真意を聞いた。
行革相として原発予算にメス
「電気事業連合会は反社会的勢力だ」。河野太郎議員は開口一番、電力業界を批判した。「過激ではないか」と懸念を述べると、その真意を説明し始めた。
河野氏によれば、電事連は任意団体であるという理由で、財務も活動の詳細も明らかにしていないない。「金を使って影響力をおよぼそうとするが、説明責任や社会的責任をまったく果たしていない」。異論のある人はいるだろうが、これが彼の認識だ。
当然、核燃料サイクルや放射性廃棄物の取り扱い、福島第一原発事故の処理などについての見方も厳しい。「国民に正しい情報が開示されていない」「政策に合理性がなく、国民の税金を無駄に使ってきた」。経済産業省、電力業界への批判は止まらない。
河野氏は15年8月から10カ月、行政改革担当大臣になった。そこでこれまでの問題意識を反映させて、原子力政策をめぐる税の使い方にメスを入れた。
原発をめぐって支出される交付金の透明化、支出した予算が、効果があるかPDCAサイクルを回して使う、ほとんど使われなかった使用済み核燃料の運搬船「開栄丸」の廃船を決めるなどだ。これは多くの人の支持を集め、原子力関係者からも目立った異論は出なかった。
福島第一原発の事故後の賠償そして福島第一原発事故の処理方法にも疑問を示した。事故後の処理・賠償費用を補うために、負担を電力託送料金に上乗せし、また税金からの支出を増やす案を経産省は16年12月に公表した。「上場会社である東京電力は、自ら責任を取っていないのに、なぜ税金が投入されたり、消費者に負担が押しつけられたりするのか」。河野氏は問題外というスタンスだ。
核燃料サイクルの非合理性
河野氏は、核燃料サイクル政策への批判を続ける。その主張を要約してみよう。
- 高速増殖炉の商業利用に赤信号が点る。その中で、日本が開発を固執する理由はない。
- 英国とフランスに委託してきた再処理により、日本の保有するプルトニウムは47トンになる。
- 「もんじゅ」の廃炉が決まり、プルトニウムを発電に使うなど合理的に利用することが当面できない。その中で六ヶ所村の再処理工場を動かせば、新たなプルトニウムが生み出されることになる。
- 経産省と電力会社は、プルサーマル(ウランとプルトニウムの混合燃料を原子炉の燃料にする)をウラン資源のリサイクルなどとごまかす。しかしそのコストは高くなり、経済的合理性はまったくない。核燃料サイクルも巨額の資金がかかる。
- これまで電力会社は原発立地自治体に対して、使用済み核燃料は地元に残さないと約束してきた。そしてその燃料を持ち込んだ青森県に対しては、再処理してプルトニウムを取り出せる資産だと説明してきた。もし再処理をやらなければ、青森県から使用済み核燃料を持ち出さなければならないが、現時点では持っていく先がない。だから仕方なく再処理を続けようとしている。
- 青森県に使用済み核燃料を移動できなければ、原発の燃料プールはまもなくいっぱいになり、原発が止まる。「使用済み核燃料の持っていく先がないから再処理、核燃料サイクルを行う」などという本末転倒な政策に、莫大なコストをかけて突き進んでいる。
- きちんと青森県に謝罪し、青森県を最終処分地にしない。使用済み核燃料の保管料を支払うという説明をすべきだ。
こうした河野氏の主張には、一理ある。もちろん反論もあるだろう。原子力政策、核燃料サイクルをめぐる議論では感情的な反対論を警戒するために、河野氏のような、一理ある主張を議論のテーブルに載せ、政策としてこなかった面がある。
河野氏の意見に耳を傾ける時
「筋を通せ、政策は合理的に、議論の機会を設け、情報を公開しろと、私は当たり前のことを行っている」と河野議員は強調する。
ただし合理的な主張は一貫し、現実主義者でもある。「電力自由化の時代、原子力の足かせが外れた方が電力会社も自由にビジネスができるはず」「未来のエネルギーは、石油石炭は、使えない。今原発をすぐに全部なくすことは無理かもしれないが、40年計画でフェードアウトさせ、再エネと天然ガスの時代を考える必要がある」。
原子力への世論は厳しい。そして与党自民党内でも、その主張はじわりと支持を広げているようだ。河野議員の訴えるエネルギー・原子力の未来に、どの立場の人も真摯に耳を傾けるべき時なのかもしれない。
(編集・石井孝明 ジャーナリスト、GEPR編集者)
(この記事はエネルギーフォーラム12月号の記事を、一部修正の上転載します。許諾をいただいた関係者の方に感謝を申しあげます。)