ある邸宅の主人が殺されているのが見つかりました。事件当時その家には長男の一郎と二郎が同居していましたが、現在は二人とも旅行に出かけています。
邸宅内に左利き用のゴルフクラブが置かれていました。被害者が右利きであることはわかっています。
この事実から、一郎が左利きである確率はいくらでしょう?なお、便宜上、日本人は平均して10人に1人が左利きだと仮定します。
被害者は右利きなので、ゴルフクラブは一郎か二郎の持ち物でありどちらかが左利きになるから、確率は50%だと考えた人が多いのではないでしょうか?
捜査に当たった警察官もこのような結論に至るかもしれません。
しかし、ちょっと待って下さい。「一郎と二郎が両方共に左利き」という場合を勝手に除外してはいませんか?
日本人の平均からすると、一郎が左利きである確率は10分の1(10%)で、二郎が左利きである確率も同じです。
一郎か二郎の”いずれかが”左利きである確率は、(10分の1)+(10分の1)−(両方とも左利きである確率 10分の1×10分の1)になるはずです。
そこで一郎か二郎の”いずれかが”左利きである確率は、100分の19となります。
これは、ランダムに選んだ2人の日本人のいずれかが左利きである確率と全く同じです。
本件では、邸宅内で左利き用のゴルフクラブが見つかっています。ですから、一郎が左利きである確率は次のとおりです。
一郎が左利きである確率(10分の1)を、一郎か二郎のいずれかが左利きである確率(100分の19)で割ってやればいいのです。
すると答えは約52.6%になります。感覚的に考えた50%に近い値ではありますが、同じではありません。そのからくりは、二人共左利きであるケースを暗黙のうちに消し去ってしまったからです。二人共左利きである確率は、上記のように100分の1という僅かな数値です。しかし、それを省いてしまうと正確な数値は導き出せません。
今回は誤差に収まりましたが、次の機会にでも「計算したら実は…!」という、あまりにも感覚と異なるケースをご紹介したいと思います。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2016年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。