米12月雇用統計、トランプ新政権発足前に就労者数の伸び振るわず

安田 佐和子

米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比15.6万人増と、市場予想の17.5万人増を下回った。前月の20.4万人増(17.8万人増から上方修正)にも届いていない。米12月ADP全国雇用者数並びに人材派遣会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社が発表した12月の採用予定数で明らかになった通り、全般的に振るわず。トランプ新政権の発足を控え、インフラ投資や法人税減税への期待が掛かるものの就労者数を押し上げることはなかった。過去2ヵ月分は、1.9万人の上方修正(10月分が14.2万人増→13.5万人増)となる。10〜12月期平均は16.5万人増で、2015年平均の22.9万人増を下回ったままだ。年間でも17.9万人増と、2015年のペースに及ばなかった。

NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比14.4万人増と、市場予想の16.5万人増を下回った。前月分は15.6万人増から19.8万人増へ上方修正されている。民間サービス業も13.2万人増と、前月の18.5万人増(13.9万人増から上方修正)に及ばず。セクター別動向では教育/健康が前月の2位からカムバックしたほか、娯楽/宿泊も3位だった前月から2位を奪った。11月に首位だった専門サービスは3位に後退している。詳細は以下の通り。

(サービスの主な内訳)
・教育/健康 7.0万人増>前月は4.3万人増、6ヵ月平均は5.0万人増
(そのうち、ヘルスケア/社会福祉は6.3万人増>前月は3.5万人増、6ヵ月平均は5.0万人増)
・娯楽/宿泊 2.4万人増<前月は3.7万人増、6ヵ月平均は2.4万人増
(そのうち食品サービスは3.0万人増、なお2016年通期では24.7万人増で2015年の35.9万人増に届かなかった)
・専門サービス 1.5万人増<前月は6.5万人増、6ヵ月平均は5.4万人増
(そのうち、派遣は1.6万人減<前月は2.4万人増、6ヵ月平均は1.0万人増)

・輸送/倉庫 1.5万人増>前月は1.1万人増、6ヵ月平均は1.1万人増
・金融 1.3万人増>前月は0.8万人増、6ヵ月平均は1.0万人増
・政府 1.2万人増>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は1.1万人増

・小売 0.6万人増<前月は2.0万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・卸売 0.2万人増<前月は0.5万人増、6ヵ月平均は0.5万人増
・公益 ±0人=前月は±0万人、6ヵ月平均は±0万人

・情報 0.6万人減<前月は1.2万人減、6ヵ月平均は0.4万人減
・その他サービス 0.8万人減<前月は0.9万人増、6ヵ月平均は0.5万人増

財生産業は1.2万人増と、前月の1.3万人増と合わせ4ヵ月連続で増加した。製造業が1.7万人増と5ヵ月ぶりに増加し全体に寄与しており、米12月ISM製造業景況指数と整合的だ。一方で建設は4ヵ月ぶりに減少、鉱業も小幅ながら減少に転じた。

(財生産業の内訳)
・製造業 1.7万人増>前月は0.7万人減、6ヵ月平均は0.2万人減
・鉱業/伐採 0.2万人減(石油・ガス採掘は100人の増加)<前月は0.3万人増、6ヵ月平均は0.1万人減
・建設 0.3万人減<前月は1.7万人増、6ヵ月平均は1.1万人増

NFP、前月が上方修正されたものの鈍化は否めず。


(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.4%上昇の26.00ドル(約2,990円)と前月の0.1%から低下から上昇に反転し、市場予想の0.3%も上回った。前年比では2.9%上昇し、前月の2.5%を超え2009年4月以来の力強さを遂げた。

週当たりの平均労働時間は34.3時間と、市場予想の34.4時間に届かず前月と一致した。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は前月の40.2時間から、40.1時間へ短縮した。約7年ぶりの高水準を遂げた2014年11月の41.1時間が遠い。

失業率は4.7%と、市場予想と一致した。景気後退入りする以前の2007年8月以来の水準まで改善が進んだ11月の4.6%を上回る。12月米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2016年末見通しに並んだ。マーケットが注目する労働参加率は62.7%と前月の62.6%(62.7%から下方修正)を超えたため、失業率の上昇を回避できなかった。なお、2015年9〜10月は62.4%と1977年9月以来の低水準だった。

失業者数は前月比12.0万人増となり、前月の38.7万人減から転じ労働参加率と共に失業率を押し上げた。雇用者数は6.3万人増と、前月の16.0万人増と合わせ2ヵ月連続で増加したが力及ばず。 就業率は7〜8月、並びに10〜11月に続き59.7%と金融危機以前の水準を下回ったままだ。

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている不完全失業率は前月の9.3%から9.2%へ低下し、金融危機前にあたる2008年4月以来の最低を更新した。失業期間の中央値は10.1週と前月の10.2週以下となり、2008年11月以来の低水準。平均失業期間は前週の26.2週間から短縮し26.0週と、2009年3月の数値に並んだ。27週以上にわたる失業者の割合は24.2%と、前月の24.8%から改善が進み2009年3月以来の低水準となった。

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比微増の1億2,425万人と僅かなが2ヵ月連続で増加した。パートタイムは0.1%増の2,790万人と、4ヵ月連続で増加。増減数ではフルタイムが4.1万人増、パートタイムは3.5万人増となる。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月から増加したため、平均労働時間も34.3時間で変わらなかったものの前月比で0.1%上昇し4ヵ月連続で伸びた。平均賃金の伸びが上昇に転じたため、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.5%上昇し、前月の横ばいから上向いた。

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長のダッシュボードに含まれ、かつ「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-○
今回は9.2%と前月の9.3%から改善し、2008年4月以来の低水準だった。不完全失業者数は前月比1.1%減の559.8万人と4ヵ月連続で減少した。

2)長期失業者 採点-○
失業期間が6ヵ月以上の割合は全体のうち24.2%と、前月の24.8%を下回り2009年3月の数値に並んだ。平均失業期間は26.0週と、前月の26.2週から短縮し2009年3月以来の水準へ短縮。6ヵ月以上の失業者数は前月比1.3%減の183.1万人と2ヵ月連続で減少、2008年7月以来での最低を更新した。

3)賃金 採点-△
今回は前月比0.4%上昇しただけでなく、前年比は2.9%の上昇し2009年4月以来の高水準だった。週当たりの平均賃金は、前年同月比2.3%上昇の891.80ドルと、11月の2.2%を超えた。生産労働者・非管理職の平均時給は前月比0.3%上昇の21.80ドルで、前年比は2.5%の上昇と11月の2.2%を上回ったが、管理職を含めたヘッドラインには届かず。週当たりの平均賃金は10月と変わらず前年同月比2.0%上昇となり、732.48ドルだった。非管理職・生産労働者の賃金は、10月からの流れを引き継ぎ管理職を含めた全体を下回り格差縮小につながっていない。

平均時給、再び生産・非管理職の労働者が管理職を含めた全体を下回る。


(作成:My Big Apple NY)

4)労働参加率 採点-△
今回は62.7%となり、11月の62.6%から上昇。1977年9月以来の低水準だった2015年9〜10月の62.4%を上回った水準を継続しつつ、金融危機以前の水準である66%台は遠い。 軍人を除く労働人口は0.1%増の1億5,964万人と、小幅ながら2ヵ月連続で増加した。非労働人口は微増の9,510万人と3ヵ月連続で増加した。

バークレイズのマイケル・ゲイピン主席エコノミストは、結果に対し「全体的に勢いに欠け製造業の雇用がサービス部門の軟化を補填した」との考えを寄せた。ただ景気後退に近づいていると想定せず、「積極財政が景気減速の緩衝材となる」と予想する。賃金の上昇をめぐっては、「非管理職・生産労働者の賃金は管理職を含む全体以下にとどまった」と指摘。賃金の伸びは過去数カ月に伸び悩んだ分の反動で、ゆるやかな上昇が続くと見込む。

——米12月雇用統計・非農業部門就労者数は予想以下とはいえ、15万人台の増加ですから必ずしも悪い結果ではありません。失業率も上昇したとはいえ4.7%で、さらに経済的にパートタイムを余儀なくされている労働者などを含む広義の失業率や長期失業者の指標も改善しました。平均時給に至っては、前年比で2009年4月以来で最高の伸びに至ります。しかし、メディアのヘッドラインはdisappoint=失望、Tepid=中途半端な、といったフレーズが並びます。トランプ新政権発足前にインフラや法人税減税を目論んだ雇用を予想していたわけではないとはいえ、次期大統領の政策への期待値が高いだけに打ち上げ花火のような数字が飛び出さない限り”好結果”と判断されないのでしょう。

(カバー写真:Metropolitan Transportation Authority/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年1月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。