手数料を明示しない金融商品の販売は「無効」と判断されるかも!

日本の民法では「公序良俗に反する」契約は無効とされています(民法90条)。

民法のテキストでは、誰かを殺す殺人請負契約や妾になる契約などが公序良俗違反で無効だという例がよく挙げられます。
売春契約も公序良俗違反で無効になるでしょう。だから、風俗店では必ず「料金前払い」にしているはずです。もし「後払い」にしてしまうと、「売春は公序良俗違反で契約無効だから料金は払わない」と開き直られる恐れがありますから(笑)

ところで、法と経済学の分野の大家スティーブン・シャベル教授は、契約を無効とすることが正当化される理由を次の2点だと述べています。

まず、第三者を害する可能性のある契約です。
例えば、先ほど挙げた殺人請負の契約、競争会社間における価格協定、機関銃の売買契約などは無効とすべきだと主張しています。
これは、当事者の契約によって経済学の「負の外部性」を生じさせるからです。

「負の外部性」とは「他人に迷惑をかけること」だと考えれば、まあ当たらずとも遠からずです。大気汚染や騒音などの公害はその典型です。
殺人請負契約だと殺される人にとって迷惑ですし、価格協定は消費者に迷惑をかけます。
ですから、迷惑の程度がそれほど大きなものでなく契約当事者の利益の方がはるかに大きなものであるような場合は、無効にすべきではないとしています。

契約を無効とすべき第二の理由は、(第三者ではなく)契約当事者の一方又は双方の厚生が損なわれることを防ぐためだとしています。

日本の民法でも意思無能力の状態で締結した契約は無効です。これは、判断能力が欠如した一方当事者の厚生が損なわれないようにするためです。

更にシャベル教授は、成分や原産地表示が不適切な食品や情報開示が不十分な証券の購入契約も無効としています。
情報を開示されなかった購入者が(「こんな成分だったら買わなかったのに!」というような)不利益を強いられるのを防ぐと同時に、事前に売り手が十分な情報開示をすることを促すためです。事後に無効主張が認められると予測できれば、売り手としては十分な情報を開示するようになるでしょう。

ところで昨年、生命保険等の保険商品を銀行が売る際、手数料を開示すべきか否かが問題となりました。
保険会社や銀行は開示を渋っていたようですが、これでは成分表示が不適切な食品販売を認めろとゴネているのと同じです。

不特定多数の消費者を相手に商品を販売する場合、その成分や内訳に関する情報を開示しないのでは消費者の厚生を著しく損ないかねません。

シャベル教授の法理を用いれば、手数料の説明を受けずに保険商品を購入した人は、売買契約の無効を主張できるのではないでしょうか(根拠条文は民法90条)。
日本の裁判所でも「公序良俗違反の契約」として無効と判断される可能性があると考えます。特に、顧客の質問に対して担当者がその場しのぎのごまかしをしたような場合には…。

個人的には、開示を拒否するという姿勢そのものが(厳しい表現ですが)反社会的であると判断できると思います。
不特定多数の購入者に商品内容をあえて隠してまで売ろうとしているのですから。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。