「小諸そば」はなぜ店名を隠すのか

内藤 忍

赤坂の駅近くにいつも行列が出来ているお蕎麦屋さんがあります。「蕎麦きり みまき」と書かれた明るく清潔感のある雰囲気(写真)。お昼時に赤坂で用事があったので、入ってみました。

カウンターとテーブルがある普通のお店ですが、驚くべきはその価格です。かき揚げせいろそばを注文したのですが、特大のかき揚げ(写真下)にしっかりと盛りのある蕎麦が付いて、580円でした。普通のそば店であれば、1000円近くしても不思議の無いボリューム感です。

実はこのお店、立ち食いそばの小諸そばが作った新しい業態のようです。表参道にある「蕎麦きり みよた」というお店もこちらと同じ系列。ただし、お店のカードにも、店内のメニュにもあたかも独立した店舗のようで、どちらも小諸そばの気配はまったくありません。どうしてチェーンであることを隠しているのでしょうか?

小諸そばと言えば、気軽に入れるファストフードの代表店ですが、あまり利用することはありません。せっかくそばを食べるならもう少し高くでも本格的な味を楽しみたいと思うからです。だから、時間が無くて慌ててランチを食べる時でも、同じファストフードの吉野家やリンガーハットを探してしまうのです。

かき揚げそばを食べてみてわかりましたが、雰囲気は随分違いますが、そばの味は小諸そばとほとんど変わりませんでした。ただし、サービスは行き届いていて、今までの小諸そばのイメージとは真逆の雰囲気。それでこの価格ならお客さんがたくさん集まってくるのも納得です。

「出自」を隠してまで、新しい業態を展開する会社側の狙いは何なのでしょうか?

私の想像ですが、その1つは人材不足にあると思いました。立ち食いそば店の求人は、他のファストフードと同じように苦戦していると思います。単純労働で、お湯を使ったりかなりの重労働です。そこで、高級そば路線のお店を展開することで、労働環境を改善し、働く場所のイメージを良くすることで人材の獲得につなげようという訳です。

あるいは社員のモチベーションアップが目的かもしれません。表参道や赤坂のお店で働くことが選ばれた社員の社内でのステイタスとなれば、それを目標に頑張る人が出てくることが期待できます。

いずれにしても理由は「人」にあると思います。

人手不足が日本全体に広がりはじめ、企業の競争もいかに人を確保できるかによって決まることが多くなったように思います。ファストフードに限らず、人の確保が企業経営の重要な柱になっていくことを象徴しているように思いました。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2017年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。