先日ある会合で、産油国にとって大事なのは「生産量」ではなく「輸出量」だという話をした。国家財政にとって重要なのは、補助金があるので安価に販売される国内向けではなく、国際価格で販売される「輸出量」だからだ、という当たり前の話である。
世界最大の原油輸出国であるサウジの国内需要は、季節要因により大きく上下する。酷暑の夏場は冷房用電力需要が急増し、冬場より数十万BDほど多い原油を電源燃料として使用しているからだ。だから、ファーリハ大臣が発言しているように、冬場の今は「約束した減産幅」より多くの減産が可能なのだ、と筆者は判断している。
サウジは、収入=輸出用原油の量確保のため、電源燃料としての消費量削減を目指している。電力料金への補助金削減もその一方策だが、国内のドライガス(原油付随で生産される「ウエットガス」に対し、ガスだけで生産されるもの)田の開発に力を入れる他、再生可能エネルギー(再生エネ)および原子力発電所の建設も検討していることは周知の事実だ。
これらの事情をFTは、1月17日2:30am(東京時間)ごろ “Saudi Arabia seeks $30bn-$50bn solar and wind energy investment” と題して報じている。Simeon Kerrによるドバイ発の記事だ。サブタイトルは “Riyadh will issue tenders for renewable program in push for curb reliance on oil” となっているので内容はほぼ推察できるが、筆者の興味関心にしたがい、記事の要点を次のとおり紹介しておこう。
・サウジの石油相(oil minister)は、16日(月)アブダビにおける再生エネ関連の会合で、数週間以内に(within weeks)太陽光および風力発電の入札を実施し、2030年までに300~500億ドルの投資を見込んでいる、と発言した。
・同時に、2.8GW能力の、サウジとして最初の商業用原子力発電所に関する詳細設計提案(feasibility and design proposal)の初期段階にあることも明かした。「原発へも巨額の投資が行われるだろう」としながらも、計画の時間軸およびコストについては詳細を語らなかった。
・これは、ロシア、フランスおよび韓国と最近、詳細作業(feasibility work)の協力契約に調印した後、サウジが原発建設をめざすという最初のはっきりとしたサイン(first solid indication)だ。
・これらは、2030年までに石油依存から脱し経済多様化を図るというサウジ政府の野心的計画の一環で、代替電源の拡大を図り、エネルギーミックスを広げるために巨額の投資を行うというものだ。
・2年以上にわたる低油価により、サウジは1,000億ドル以上の外貨取り崩しに加え、175億ドルの外債発行により財政赤字を補填せざるを得なくなり、数十億ドルのインフラ投資の中止、さらには2017年第1四半期に新たな外債発行を計画している。
・ファーリハは電源燃料としての天然ガスについても言及している。
・また、光熱費および燃料への補助金削減により、2020年までに550億ドル/年の節約が可能だと見ている。ファーリハは先週別の会合で、補助金削減により目覚しい消費量の減少が見られ、これまで年間増加率5~6%だったものが2016年には0.5%だったと発言している。
・民営化の促進は従来路線とおりで、「歴史上最大」となるサウジアラムコのIPOは、2018年実施計画から不変。
・さらに国営サウジ電力は、分割し、一部を売却する、また来年には港湾および空港に加え、株式市場の民営化も実施する、としている。
・なおファーリハは、昨今の需給動向から、減産合意を7月以降延長する必要はないだろうと見ていることも発言している。
なるほど。
そう言えば我が国の経産大臣が現地を訪問中だったな。ファーリハ大臣との面談では「IPOを東証でも実施を」と要請したと伝えられているが、再生エネや原発の話はしなかったのだろうか。気になるなぁ。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月17日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。