世界の耳目がワシントンの連邦議会議事堂で20日開催されたロナルド・トランプ新米大統領の就任式に集まっていた時、音楽の都ウィーンで同日午後6時(現地時間)、速報が流れてきた。18歳のアルバニア出身のオーストリア人が地下鉄で爆発テロを実施する計画をしていた容疑で特殊部隊コブラによって逮捕されたというのだ。内務省コンラード・コグラー公安事務局長は「テロ計画は履行される寸前だった」と述べている。
緊急記者会見を招集したソボトカ内相は同日夜、テロ情報が「外国情報機関から」と明らかにする一方、容疑者が単独か共犯者がいるか、イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)との関連について、「捜査が進行中だ。そのため詳細な情報は公表できない」と説明する一方、「市民が多数集まる場所は可能な限り、回避するように。特に、持ち主がない鞄が見つかったら気を付けるように」と、国民に警告を発している。
容疑者はウィーン市10区の自宅アパートで逮捕された。同容疑者が所用していた携帯電話やラップトップは押収され、容疑者のコンタクト状況などを解析中という。コンラッド・コグラー公安局事務局長は、「18歳の容疑者が単独でテロを計画していたはずはない」と判断、その背後にはイスラム過激派勢力の暗躍があるとみている。
ソボトカ内相は、「オーストリアがイスラム過激派テロの脅威から安全だということはない。今回のテロ計画の発覚はそのことを証明している」と述べ、フランス、ベルギー、そしてドイツで発生したイスラム過激派テロ組織がオーストリアでテロを計画したとしても不思議ではないと述べた。
ウィーン市内は翌日の21日、国際空港内や鉄道構内への監視が強化され、市民が集まる場所では監視する警察官の姿が通常より多く目撃された。
ちなみに、オーストリア内務省によると、今年8月31日現在、同国からシリアやイラクで聖戦を繰り広げるISに参戦した国民数は280人で、そのうち、221人は男性、59人は女性だった。女性の数は全体の21%を占めている。
また、戦闘地のシリアやイラクからオーストリアに帰国した国民は87人で、そのうち13人は女性。オーストリアからISに参戦して死亡が確認された数は44人。全て男性だ。
オーストリア、特にその首都ウィーン市は世界的な観光地であると共に、国連、石油輸出国機構(OPEC)、欧州安全保障協力機構(ODEC)など30を超える国際組織の本部、ないしは事務局がある国際都市だ。
そのオーストリアで過去3度、大きなテロ事件が発生した。テロリスト、カルロスが率いるパレスチナ解放人民戦線(PFLP)が1975年12月、ウィーンで開催中のOPEC会合を襲撃、2人を殺害、閣僚たちを人質にした。81年8月にはウィーン市シナゴーグ襲撃事件、そして85年にはウィーン空港で無差別銃乱射事件が起きている。それ以降、首都ウイーンを舞台とした大きなテロ事件は生じていない。
現地のテロ問題専門家は今回のテロ計画について、「イスラム過激派はトランプ米大統領の就任式に合わせ、ウィーンで地下鉄爆発テロを計画していた可能性が考えられる。ここ数日、数週間は警戒を緩めるべきではない」と警告を発している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。