“シュワちゃん”がバチカン大使に?

トランプ米大統領が就任する前まではその一挙手一投足に一喜一憂し、就任後は新大統領との会談設定にあたふたする日韓両国の政治家たちの姿を見る度に、トランプ氏は本当に人騒がせな大統領だといわざるを得ない。

安倍晋三首相はトランプ氏が大統領に当選した直後、ニューヨークのトランプ・タワーで非公式の首脳会談をしているから少しは余裕があるが、トランプ氏が今月20日、正式に第45代米大統領に就任した以上、今度は正式な首脳会談をぜひとも実現させたいという東京の意向を受け、駐ワシントンの日本大使館関係者は昼夜を問わず、奔走中だろう。日米間は貿易・経済問題から中国の軍事脅威など安保問題を抱えており、日米首脳会談への安倍首相の熱意は当然のことかもしれない。ぜひとも、新大統領との間で意思疎通をしたいという首相の願いはシリアスだ。

一方、隣国の韓国は日本よりかなり遅れを取っている。朴大統領の弾劾問題など国内で問題を抱え、権限を有する大統領が不在という状況でトランプ新政権との交流は一層大変だ。
もちろん、韓国側は無策ではない。柳一鎬経済副総理をニューヨークに派遣したが、トランプ陣営から「会見は難しい」と断られたという。韓国・中央日報によると、「世界10位経済大国、同盟国の副首相がこういう『無接待』を受けて帰ってこなくてはならなかったのか、残念だ」といった声が聞かれるという。

日韓両国にとって幸いな点は、マティス新国防長官が来月上旬にも日本と韓国を訪問することだ。トランプ新政権とのパイプ構築のチャンスだ。

目を欧州に向けると、まったく別世界だ。英国のメイ首相が27日、ワシントンでトランプ新大統領と初の首脳会談を実施する。米英両国の伝統的な関係から見ても自然だが、他の欧州諸国の政治家がトランプ氏との会談実現に腐心しているとは聞かない。例えば、アルプスの小国オーストリアのケルン首相がトランプ米大統領との首脳会談実現のために奮闘中とは聞いたことがない。トランプ新政権に対して、欧州諸国が無関心だということではない。事実は逆だ。欧州の主要メディアは連日、トランプ新政権の今後の動向について大きく紙面を割いて報じている。

日韓両国が米新政権の動向に異常なほどの神経を使う背景には、米国経済への依存度が大きいうえ、北朝鮮、中国といった国に対峙し、地域の安全問題があるからだろう。しかし、厳密にいえば、欧州も同様だ。ウクライナ問題、シリア問題などを抱え、米国との連携が不可欠だが、その深刻度で日韓両国の指導者たちと相違があるのだろうか。

トランプ新大統領との首脳会談のほか、米大使として誰が派遣されて来るかが欧州でも話題だ。トランプ政権は既に国連大使にニッキー・ヘイリー・サウスカロライナ州知事を任命済みだ。駐日米大使は既に名前(ウィリアム・ハガーティ氏)が挙がっているが、隣国・韓国ではマーク・リッパート駐韓米大使は帰国済みで、その後任の名前すら挙がっていないというから、ソウル側は焦っている。

参考までだが、世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会総本山、バチカン市国駐在のケン・ハケット米大使の後任に日本で「シュワちゃん」の愛称で人気のある米俳優アーノルド・シュワルツェネッガ―氏(69)の名前が挙がっているという。同氏は25日、バチカンを訪問し、フランシスコ法王を謁見したばかりだ。元カルフォルニア州知事を8年間(2003~2011年)務めた“ターミネーター”が駐バチカン米大使となれば、いろいろと話題を呼ぶだろうが、大統領選ではトランプ氏を批判したこともあって、その実現度は不明だ。シュワちゃんは一応、カトリック信者だ。
【短信】
オーストリアで「緑の党」出身初の大統領の就任式

ウィーンのオーストリア国民議会で26日午前、アレキサンダー・バン・デア・ベレン新大統領(72)の就任式が挙行された。前「緑の党」党首出身の大統領就任は欧州連合(EU)では初めて。任期は6年間。

▲就任式で演説するバン・デア・ベレン新大統領(2017年1月26日、オーストリア放送の中継から)

大統領選は昨年4月、第1回投票が実施され、6月にバン・デア・ベレン氏と野党1党の極右政党「自由党」のノルベルト・ホーファー氏(45)との2候補者の間で決選投票が実施されたが、不正投票などが発覚し、連邦憲法裁判所が昨年7月1日、決選投票にやり直しを要請。それを受け、昨年12月4日、決選投票が行われ、バン・デア・ベレン氏が当選した。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。