TPPから日米FTAに乗り換えはそれなりに得

八幡 和郎

首相官邸サイトより(編集部)

トランプ米大統領は環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したが、そのかわりに二国間の経済連携協定(FTA)の交渉を始める意向という。日本としては、なお、TPPの意義についてトランプに強調するしかない。それは、ほかの参加国に対する礼儀でもあるし、一般論としての多国間協定に否定的な雰囲気の蔓延を避けねばならない。

しかし、いまさらトランプ政権下のTPP推進に期待しても仕方ないのも現実だ。そして、そもそも、日本がTPPを推進したのは、日米FTAに乗り遅れ、アメリカ議会が新たなFTAに合意するのが難しいので、その代わりにというのも動機だった。

そして、TPPには中国を睨んで、日米を中心として経済秩序をつくって、中国はそれに参加するか否かを迫られるという方向にもっていけるというFTAにはない新たな効用があったわけだが、しばらくは、トランプが宗旨替えするのは難しいからいっても仕方ない。

それでは、なぜ、トランプが多国間の経済連携協定を嫌うかだが、理由はいくつかある。ひとつは、①「トランプ氏が複雑でガラス細工のような多国間の話し合いを自分の頭で理解できない」のだろうと思う。自分で分からないから嫌がっているのだと思う。

もうひとつは、②「統一ヨーロッパ(EU)という枠組みが、移民・難民に利益を与えすぎたことに対する嫌悪感」だと思う。これはある意味で正当だ。これは私もある程度は賛成だ。EUはまず東欧に対して急いで拡大しすぎた。ドイツがそれを望んでフランスもそれを受け入れたからだ。また、それをアメリカは後押しをした。どうしてそうなったかといえば、ロシアを封じ込めるために、これらの国を仲間にいれることが有効だと考えたからだ。ギリシャなどNATOやEUに加盟させたのもアメリカの強い要望によるものだった。

しかし、この陣取りゲームは統一ヨーロッパの質を低下させた。私はもともとEUの急速な東欧への拡大には反対だった。私はもともと拡大よりも質を重視した統一ヨーロッパ支持だから、イギリスの離脱も欧州側にとって悪いことばかりでないと考えていることはアゴラでも書いてきた通りだ。(関連拙著:『世界と日本が分かる 最強の世界史」扶桑社)

そのようにロシアへの警戒感から、拡大された統一ヨーロッパを望んでいたアメリカが、ロシアと仲良くしたいから統一ヨーロッパの拡大に反対だといわれたら、仕方ない。

また、難民に対するメルケルに主導された甘すぎる態度は、世界にとって馬鹿げたことだった。それは、かねがね日本にとっても中国や朝鮮半島来から難民がやってきても受け入れたくない日本にとってはトランプの側に立ちたいくらいだ。蓮舫二重国籍問題を通じて私は強く中国からの難民・移民の増加に警戒を訴えてきた(関連拙著:「蓮舫『二重国籍』のデタラメ」飛鳥新社)。

トランプが日米FTAを推進してくれるというなら、まあ、それでもいいだろう。まず、第一には、日米FTAが難しそうだからTPPというのも一面だった。また、NAFTAとか米韓FTAとかが改訂されて弱体化するならTPPの必要性は弱まる。そもそも、それらが存在する中で、日本だけが外に置かれると日本にとって不利なので、TPPをといってたのだから、米韓FTAやNAFTAが弱体化するなら、TPPの効用は相対的には減じる。

ここは、韓国のアンチ米韓FTA派を裏でけしかけて破棄でもさせればいいのかもしれない(なかば冗談だからあしからず)。

いずれにしても、たとえトランプが弾劾されても、そう簡単にTPPには戻らないだろうから、日米FTAも向こうが交渉しようというなら乗れば良い。

その一方、日本は世界的な自由貿易が推進されるように、慎重にアメリカ抜きのTPPを模索すればよいし、さらには、EUとの経済連携協定(EPA)を推進してアメリカが気が変わるまでの時間を無駄にしないようにすべきだ。

また、言うまでもないことだが、日米FTAの交渉のなかでも、将来、TPPに戻るときにも、すでに合意されたTPPの内容は出発点になるわけで、なにもまったく無駄になるのではない。この点についても忘れている人が多い。