ネット時代に読まれる文章を書くコツとは?

小林 恭子

「メッセージの時代」に生きている

ネット上で誰もが気軽に情報発信ができるようになり、私たちは溢れるほどの情報に囲まれている。しかし、果たして書き手の意図は十分に読み手に伝わっているのだろうか?「読める」文章を書くための手助けとなるのが坪田知己氏による『21世紀の共感文章術』(文芸社)だ。

メディア環境の激変を見てきた坪田氏は、私たちが「メッセージの時代」に生きているという。「ネットで交換するメッセージの質」が問われるようになった、と。

また、21世紀は「感性の時代」でもあるという。「『人間らしさ』が尊重される時代」に、一番大事なことは何か。著者はコミュニケーションにおける「共感」を挙げる。文章術においても「共感を呼ぶ」ことが「成否の分岐点になる」、と。

著者は、これまでに出版された著名な小説家による一連の文章読本は文学を志す人には必読書でも、「日常的な文章を読み聞きする私たちには別世界」と結論づける。

また、読解に頼りがちで「文学」と実用的な「文章」の区別をしていない日本の国語教育にも疑問を抱く。授業では生徒は文学作品を読まされることが多いが、「人生を生きていくうえで重要なのは、『コミュニケーションとしての日本語』ではないか」、と読者に問いかける。

本書のタイトルにも入っている「共感」=エンパシー=の今日的な重要性については、筆者も最近実感しているところだ。21世紀のメディアのキーワードといってもいいだろう。

ソーシャルメディアの共有機能や「いいね!」ボタンはまさに共感を通じて交流が行われていることを示す。デジタル収入を増加させるための動画の活用でも、「感情(エモーション)」や共感が視聴回数を増加するための鍵を握る。

本書による「いい文章」の要素は

何が言いたいのかが簡潔・明瞭、

リズム感があって読みやすい、

筆者の気持ちが伝わること。

興味深いのは中立公正の原則がある新聞記者が書く文章が必ずしも「ベスト」というわけではない、としている点だ。

また、文章はあくまでも本人のものであり、講師のまねをしても「上手にならない」と釘を刺す。

本書の元になったのは、著者が2011年から開催してきた文章講座だ。2015年末までに参加した生徒数は約900人に上る。

一つの教室の生徒は約6人。全4回で、生徒が書いた文章を坪田氏が添削する。

本書には添削の具体例が多数掲載されており、添削前後の文章を比較しながら、コツをつかめるようになっている。 頭の中で分かったつもりでいても、実際に文章を書いてみなければ身につかず、添削指導を受けることで文章力が向上するという

文章講座での学びがどんどん活動の幅を広げていく。昨年東京・二子玉川で開催された講座終了後、受講した生徒たちが在宅ライターの仕事をしたいと申し出たことで、今年3月には「合同会社・Loco共感編集部」が設立された。都内数カ所で文章講座を開催し、企業からの記事執筆依頼を受けて仕事をする生徒たちも出てきた。今年2月には、講座参加者による文章を 「心の華」として自費出版するに至った。

本書の終盤で坪田氏は日本人が自律するためにも文章力、表現力の向上を願う、と書く。「人間が自律できているかどうかは、その人の意見表明によって確認できます。ところが、話し方が下手だったり、文章力が不足していると、意見がしっかりと他人に届きません」。

著者は中学校、高校の国語の正課として「文章の書き方」が教えられることを望む。「筆者の個性が輝く」ように教えて欲しい、とも。「ひとりひとりが『自分の文章』をしっかりと身に付けて成長すれば、日本はもっともっといい国になると思います」。


編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2017年2月1日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。