「薬物報道ガイドラインを作ろう!」プロジェクト

著名人の薬物逮捕報道はセンセーショナルになりがちで、本質的な問題解決に目が向けられているか?(画像は「ぱくたそ」:編集部)

昨日、厚生労働省記者クラブで「依存症の正しい報道を求めるネットワーク」で、
「薬物報道のガイドライン」作成の件につき、記者会見をさせて頂きました。

お陰様で、既にいくつかのネットコンテンツで取り上げられ、ヤフーニュースにもなっていますが、

市民グループが「薬物報道」ガイドライン発表「偏見を助長させないで」(弁護士ドットコム) – Yahoo!ニュース

「まちがった薬物報道はもうやめて」 専門家、当事者は声をあげる(BuzzFeeD)

このガイドラインは、私たちの方から「こういうものを作ったから守って下さい!」といった類のものではありません。
あくまでもメディアの方々にもご参加頂き、どうやったら社会全体で依存症者とその家族を応援し、好循環を産む仕組みが作り出せるかについてお考えいただきたいという参加型になっています。

実際、この取組みはすでにたたき台を作って頂いた、荻上チキさんのラジオ番組「Session-22」でも取り上げて頂き、リスナーの方々からも取り入れた方がよい文言をTwitter等でお寄せ頂き、それらをたたき台に加え変更し、現在1.1バージョンをUP致しております。

依存症の正しい報道を求めるネットワーク

今後は、この1.1バージョンを、シンポジウム等でさらに検討し、また実際メディア側の皆様からのご意見も伺いながら、
どんどんバージョンUPしていきたいと考えています。

どうですか?この参加型「薬物報道のガイドラインを作ろう!」プロジェクト。
是非、皆様のお力で盛り上げて頂きたいと思います。

さて、これまでの薬物報道の何が一番問題なのか?
私たちは、こうお伝えしたいのです。

確かに、薬物事犯は殆どの場合刑事犯となるので、どうしても「手を出す人が悪い」というそもそも論に、終始してしまう方がいまだに、依存症の支援者の中でもいらっしゃるのですが、世界の流れとしては「それを言っていても解決にはならないので、なんとかしなくてはいけないよね。」ということでハームリダクションなどの概念が世界中で広まっています。

なぜなら刑事罰とは別に、治療の側面を考えなくては、同じことを繰り返し続け、社会負担は増えるばかりだからです。

再犯が多いと言われている薬物事犯ですが、皆、やめようという努力もしているし、また一時的にやめられることは多々あります。けれども依存症という病気の特徴で、強迫観念や渇望現象が抑えられず、やめ続けることができないのです。

先日、ネットワークの発起人のお一人、松本俊彦先生にこんな話を伺いました。
「年末年始って、メールで予約が沢山入っているんです。ということは皆、新しい年には今度こそ薬物をやめよう!と思っているんですよね。皆、悩んでいるんです。」
これは自分のギャンブルの経験からも納得できる話です。

再発は依存症にはつきもので、致し方ないことでもありますが、けれども再発のリスクは軽減できるに越したことはありません。ところが今のマスコミの皆さんの薬物報道は、回復を応援するものではなく、再発を誘引しているものが多数を占めています。

まるで見せしめのように当事者を叩きのめすことは、懲らしめや教訓になるわけではありません。
依存症者が、社会からの疎外感を味わうだけです。有名人の報道は、自分を重ねる鏡なのです。

必死に、禁断症状や、渇望現象、強迫観念とたたかっても、結局、自分には社会の居場所など与えられない・・・
という絶望感が広がってしまえば、もう病気と闘うことはできません。
「どうせ、自分なんて・・・」と思ってしまったら、あっという間に再発してしまいます。

また、依存症者はそもそも人生に絶望しており、非常に高い自殺率を示しています。
もともと生い立ちに虐待があったり、学校生活でいじめにあったり、性被害など様々なトラウマを抱えている人も多いですし、またそういった要因がなくとも、依存症を発症すると、借金などの二次的問題で、大切な人を傷つけてしまったりするので、自分のことを最も自分が嫌っています。

ですから「人間やめますか?」などという報道がされると、「人間やめられるならやめたい」と思ってしまい、
回復の道に益々繋がれなくなります。作家の故中島らもさんも、著書「アマニタ・パンセリナ」の中で、「人間やめたいから覚せい剤打ってるんだ!」とおっしゃっています。私たち当事者や家族、また支援者の間では、「依存症は緩慢なる自殺」と言われており、脅し文句は何の役にも立ちません。

また、家族の愛情不足で依存症になったり、家族の愛情で依存症が回復したりもしません。
依存症は精神疾患であり、治療が必要な「病気」です。

家族の愛情が不足して、風邪をひいたり、家族の愛情で、はしかが治ったりしないのと同じで、依存症も治療プログラムにさえのれれば回復ができるのです。ですから報道の際には、浪花節めいた道徳や家族愛より、相談窓口等を案内して頂く方がよっぽど有益です。

こういった誤解や偏見を是正し、何よりも現在薬物を使っている当事者とその家族、または薬物を使うリスクの高い人達が、孤立をしないような報道を心がけて頂きたいのです。

そして病気の真っ最中の人を叩くのではなく、回復した人の生き様を取り上げて頂ければ、回復する勇気、モチベーションを保つことができます。

是非、マスコミの皆様には、依存症者を回復へと導く報道、安易に「ダメ絶対」を伝えるのではなく、より抑止力の高い報道を目指して頂ければ幸甚です。

今後は、マスコミの皆様も交えた、シンポジウムなども計画しております。
どうぞ宜しくお願い致します。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2017年1月31日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。