遠藤周作氏が原作の映画「沈黙」を観ました。エンターテイメント作品ではなく、楽しいとはお世辞にも言えない作品ですが、ここ数年観た映画の中では自分にとって最も重要な作品だと感じました。
上映時間は162分と3時間近くあり、派手な演出や音楽も無いのですが、長さをまったく感じませんでした。しかし、そのほとんどは長崎におけるキリスト教徒に対する弾圧シーンです。火あぶりや逆さ吊るし、水責めといった残酷なシーンが続きます。正直見ていて息苦しくなるような内容であまり見たいものではありません。それでも、その中から、少しずつ原作とスコセッシ監督のメッセージが伝わってきます。
信仰を最後まで捨てず、役人に捕えられ残虐な処刑をされていった貧しい農民の人たち。ポルトガルから布教にやってきて結局棄教してしまった宣教師たち。人間の強さと弱さ、何が正しいことなのかの心の中での葛藤、神への信心と疑念。揺れ動く人間の心が、様々な登場人物から描かれます。
そんな登場人物の中で一番印象に残ったのが、窪塚洋介さんが演じるキチジロー(写真)です。人間の弱さの象徴のような存在として描かれており、自分自身に重ねてしまいました。もし自分が江戸時代にキリスト教を信じ、隠れキリシタンだったら幕府の弾圧に遭って、どんな風に行動していただろうか。そんなことを考えてしまいます。
重苦しい気持ちで、この映画を観終わった後の、後を引く不思議な感覚はどこからくるのでしょうか。一言でどんな映画だったか、自分の頭の中で整理できない混乱がありました。
そして、観終わってからも、ずっとたくさんの疑問が頭の中に浮かんできました。
「宗教とは人を苦しめるためにあるのか」「神はなぜ苦しんでいる人を助けようとしないのか」「外国から入ってきた宗教をそこまで信じる長崎の農民の心の中には何があるのか」「棄教した人は裏切り者なのか」「目の前にいる人たちの苦しみを解放することと自分の信仰を貫くことのどちらが大切なことなのか」・・・
しかし、これらの疑問は、テストの問題のように簡単に答えが出るものではありません。答えを求めるのではなく、答えを考え続ける過程にこそ価値がある。そんな風にも思えてきました。
この映画はキリスト教を題材にしていますが、テーマは宗教ではありません。生きることの意味や人生にとって大切なものは何かを考えさせてくれる深い映画です。クリスチャンだけではなく全ての人に、映画館へ足を運んでみることを強くお薦めします。
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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2017年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。