トップをクビにする前に検証すべきこと

「一発レッド」を出す前に考えるべきこととは?(写真ACより:編集部)

企業経営者など組織のトップは、業績や成績が低迷すると辞任したりクビになったりします。「低迷の責任を取る」というのが理由です。

日本企業の経営者も、安定株主比率が低下した今日ではいつ株主からクビにされるかわからない立場に立たされています。メンツを重んじて「辞任」という形にはしているものの事実上のクビというケースが多々あります。

しかし、業績が極めて悪かったからといって辞任を迫る前に、以下の点に留意すべきでしょう。

まず、業績や成績の悪化は偶然不運がいくつも重なった結果かもしれないという点です。

平均への回帰という概念をご存知でしょうか?

1回目のテストで特別優秀な成績を収めた生徒が、2回目のテストでは平均に近い点数を取るという例がよく挙げられます(逆もあります)。

例えば、プロ野球で10連敗くらいするとチームの監督が休養したり辞任するケースがありますよね。しかし、昨年のセリーグの勝率を見てみると、首位の広島が6割3分1厘で、最下位の中日は4割1分4厘なのです。最下位になるチームでも平均すれば4割以上の勝ち星に恵まれるわけですから、10連敗というのは明らかに異常値です。その後、試合を続けていけば(仮に戦力が他のチームより客観的に劣っていたとしても)勝率4割という平均に回帰していくはずです。

このように、たまたま不運が重なって異常値が発生することは往々にしてあるので、異常値だけに注目して軽率な判断を下すべきではありません。

実は、企業経営者の能力を図る上で陥りがちな過ちは、好業績を収めた時に経営者の能力だと思いこんでしまうことです。判断する側としては、こちらの方がはるかに厄介なのです。

好業績や好成績の場合は、経営者の能力によるものなのか、それとも単なる異常値なのかを判断するのが難しいからです。
前年度の業績が極めて悪く、経営者が変わったとたんに業績が回復したようなケースだと、もしかしたら平均への回帰なのかもしれません。

何事もそうですが、成功という結果は(運も含めて)様々な要素が絡み合っているので、その原因を特定するのは極めて困難です。成功者は後付けであれこれと理由を述べたがりますが、それが真の原因かどうかは実はよくわからないのです。

それに比べて、失敗の原因を究明するのは比較的容易です。「あの判断が裏目に出て損失が膨らんだ」というふうに、(冷静になって振り返れば)概ね特定が可能なのです。ですから、成功者の話を聞くよりも、失敗事例を「他山の石」として教訓にした方が、会社経営においても人生においてもはるかに合理的だと言われています。

冷静になって業績悪化や成績悪化の原因が特定できたら、その責任をトップに負わせるべきか否かを検討すべきでしょう。
不幸な偶然が重なったような場合は、翌年度は平均への回帰が期待できます。判断当時の状況下ではやむを得なかった決断が結果として裏目に出たのであれば、一概にトップの能力不足とは言えないでしょう。

ただ、往々にして世の中では、「失敗の原因究明」を潔くない責任転嫁だと断じてしまう傾向があります。

特に、企業が倒産してしまったような場合は、経営者の弁に真剣に耳を傾けるのは破綻処理に当たる弁護士くらいかもしれません。

ということで、私のささやかな経験から考えると、企業破綻の原因の多くは「問題先送り」でありました。個人破産の場合は、これに「金融リテラシーの欠如」(簡単に言えば金利が理解できない)が加わります。

何年も前から粉飾をしていたりもっと阿漕なことをしていても、経営者の多くは「今日まで無事に経営を続けることができたのだから明日からも大丈夫だ」と思ってしまうようです。そこまで楽観的になれなくとも、現状を変えようという英断のできる経営者は滅多にいません。リスク回避的で保守的という人間(特に日本人)の性格が、現状を変えさせないのかもしれません。

にっちもさっちも行かなくなって相談されたときには、手の施しようのないボロボロの状態になっていたという思いを、私は何度もしてきました。

いささか横道にそれてしまいました。
つまり、トップをクビにする前にまずやるべきことは業績や成績不振の原因究明です。
特定された原因が「問題先送り」というような弁護の余地のない場合はクビにして責任追及するのもやむを得ないでしょう。

経営者の責めに帰すべき原因が見つからない場合や、はっきりと原因が特定できないような場合は、単に不運が重なった結果かもしれません。平均への回帰を期待して、もう1年我慢してみるのも大いにアリだと考えます。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。