【映画評】虐殺器官

渡 まち子

アメリカでは9.11以降のテロの脅威に対抗するため、徹底した情報管理がなされていた。その一方で、世界各地で紛争が激化。米軍の特殊部隊大尉クラヴィス・シェパードは、多くの開発途上国で頻発する紛争や虐殺の背後に存在する、謎の男ジョン・ポールを調査し彼の行方を追跡せよとの命令を受ける。元言語学者であるジョン・ポールがチェコに潜伏しているという情報をつかんだクラヴィスは、彼を追うが、そこには驚くべき真実が待ち受けていた…。

伊藤計劃の小説を劇場アニメ化したSFアクション「虐殺器官」。伊藤計劃は2009年に34歳の若さで病死し、彼の作品をアニメ化するプロジェクト“Project Itoh”がスタートするが、2015年に、制作を担当していたスタジオmanglobeが倒産し、一時は制作中止の危機に陥る。だが新たに設立されたジェノスタジオによって引き継がれ、再始動し、ようやく完成、公開に至るという、すったもんだの顛末でファンを心配させた。何はともあれ、本作の完成を喜びたい。物語は、テロによる虐殺の嵐が吹き荒れる世界で、米軍特殊部隊大尉のクラヴィスが“虐殺の王”と呼ばれる謎の男を追跡するというもの。アニメにして堂々のR15指定作品というだけあって、鮮烈なアクションや戦闘シーンに目を奪われる。だが一方で、主人公は繊細かつ内省的で常に自問を繰り返す。この対照的な描写が物語の魅力だ。“虐殺の文法”という驚愕の法則が登場するが、言葉の持つ力に圧倒される。言葉についての物語というあたりが、アクション映画であると同時に繊細な心理ドラマとなった要因といえるだろう。原作を大きく省いたり、改変したりする部分があるので、そこは原作ファンの評価が分かれそうだ。それにしても改めて、伊藤計劃の夭折が惜しまれる。
【60点】
(原題「虐殺器官」)
(日本/村瀬修功監督/(声)中村悠一、三上哲、石川界人、他)
(繊細度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月7日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式FBから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。