独新大統領は愛妻家で有名

フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー前外相(61)が12日、連邦会議で予想通り、ドイツの新大統領に選出された。同氏は、本音を言えば、外相を務めていたかったという。シリアの内戦問題では積極的に和平交渉に係り、イランの核問題でも国連安保常任理事国5カ国とイランの間で忍耐強い外交交渉を展開し、内外で評価が高かった。本人もヨハヒム・ガウク大統領の後任に就任することに少々、躊躇したはずだ。しかし、世界の紛争解決のために外交のフロントで活躍したいという同氏の願いは断念せざるを得なくなった。同氏は先月27日、外相を辞任し、ガブリエル副首相にポストを譲っている(シュタインマイヤー氏は2005年から09年も外相を務め、07年から09年までは副首相も兼任してきた)。

▲大統領に選出されメルケル首相から花束を受けるシュタインマイヤー氏(2017月2月12日 、連邦議会で=ドイツ連邦議会の公式サイトから)

メルケル連立政権の「キリスト教民主同盟」(CDU)と社会民主党(SPD)の両党が支持できる統一候補者はシュタインマイヤー氏しかいなかったのだ。メルケル首相は独自の党候補者を擁立したかったが、社民党がシュタインマイヤー氏を出せば敗北する可能性が考えられる。9月24日の連邦議会選挙前に社民党の大統領候補者に敗北すれば、総選挙の行方にも悪影響を及ぼす。メルケル首相としてはそれだけは避けたかった。そこでSPDのシュタインマイヤー氏をCDUも支持し、統一候補者とすることで両党の思惑が一致した。連立政権の統一候補者として出馬を願われたシュタインマイヤー氏には他の選択肢がなくなったわけだ。

ドイツでは大統領は名誉職的立場であり、大統領に大きな権限があるフランスとは異なる。その選出方法もドイツの場合、連邦議会と16の州議会から比例代表で選出された代表によって選出される。国民の直接投票ではない。議会政党が有力候補者を擁立し、投票で過半数を獲得した候補者が選出される。だから、CDUとSPDの統一候補者となったシュタインマイヤー氏は選挙前から新大統領ポストが約束されていたわけだ。

12日の投票では、シュタインマイヤー氏が有効有権者1239人中、931票、全体の75%の得票を獲得して1回目の投票で当選が決定した。ちなみに、候補者はシュタインマイヤー氏のほか、左翼党が擁立したクリストフ・ブッタ―ヴェゲ氏(128票)、「ドイツのための選択肢」(AfD)のアルブレヒト・グラサー氏(42票)ら計5人が出馬した。

連邦大統領は国民の代表であり、国家の危機の時には大局的な立場からアドバイスを発する立場だ。連邦大統領に欠かせない資質は演説が上手くなければならないことだ。ヨアヒム・ガウク現大統領も牧師出身の名演説家で知られている。「過去に目を閉じる者は、現在に対してもやはり盲目となる」という有名な言葉を語ったリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー(任期1984~1994年)は代表的な名演説家の大統領だった。

シュタインマイヤー氏は当選直後の演説で、「国民に勇気を与える大統領(Mutmacher)となりたい」と述べ、「ドイツは世界の希望の拠り所だ」と主張している。なお、同氏は昨年8月、大統領候補者だった米国のトランプ氏について「憎しみの伝道師」と厳しく批判している。

シュタインマイヤー氏はドイツ政界では珍しいほど国民の人気が高い政治家だ。これは当方の推測だが、同氏の卓越した政治力だけではなく、同氏が夫人思いの政治家だという点があるのだろう。同氏は2010年8月23日、「腎臓移植を待つ妻に腎臓を提供するために移植手術を受ける。そのため、数週間、政治職務から遠ざかることになる」と公表し、国民を驚かせたことがあった。
同氏の妻エルケ夫人とは学生時代から知り合いで1995年に結婚。夫人は行政裁判官として活躍してきたが、腎臓の病気のため、腎臓移植を登録したが症状が悪化し、提供者が見つかるまで待機できなくなった。そのため、同氏は2010年、自分の腎臓を夫人に提供している。

夫人思いの新大統領は3月19日からベルリンの大統領府(べルヴュー宮)の主人として新たなミッションに取り組む。任期5年で最長2期まで。プロテスタント教会に所属。敬虔なキリスト者としても有名だ。バチカン放送もシュタインマイヤー氏の大統領選出を歓迎している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。