理想の介護がここにあった ! 鹿児島・旭ヶ丘園の「尊厳経営」

「こんにちは~、こんにちは~」

鹿児島・旭ヶ丘園の園長・園田希和子さんは、職員・利用者の方ひとりひとりに目線をあわせて温かく声をかける。


(旭ヶ丘園の皆様と。写真右から2人目が園田園長)(写真提供:旭ヶ丘園)

ここ数年の旭ヶ丘園の変化は、著しい。

(特養80床に対して)

↓↓↓↓↓(以下、グラフをご参照下さい)

①年度別入院延べ日数推移

 

②年度別入院件数推移

③看取りケア率

 

④たん吸引等と経管栄養の実施における有資格者数推移

⑤排泄ケアの取り組み

 

と、いった具合だ。
しかし、これらは数字や成果を追い求めたものではないという。

では、何をしたのだろうか!?

その道筋は、一筋縄ではなかったという。

園田さんが、最初に、旭ヶ丘園に来たときは「正直、なんてよどんだ空気の職場なんだろう。」と思ったとのこと。それからというもの、毎日、理想を語って語って語り尽くした

ベテランの職員は、それでも凝りかたまったものが、どうしてもある。100人の職員のうち、3分の1強の人事異動を断行した。各セクションのトップも交代したという。

理由が分かれば、本人も納得される」と言われるのは、まさに対話を繰り返したから。

看護と介護の壁を壊す

介護施設は、病気を治療する病院ではない。病や障害を属性としてもった高齢者の日々の生活を支える場だ。だからこそ、介護士が主体にならなければならない。しかも、「看護の知識をもった介護士が必要」と、力を込める。

高齢者は昼間よりも夜間に容体が急変し、亡くなることが多い。しかし、夜間は、看護師は、勤務していない。看取りケアをするためには、介護士ひとりひとりがレベルアップしなければならない。

旭ヶ丘園では、資格の取得を積極的に支援。痰(たん)の吸引ができる有資格者は40名ほど。鹿児島県下の施設で、他に例を見ない数だ。

痰(たん)の吸引資格を取得するためには、月に3・4回の研修に加え、長期間の実地研修を含む9ヶ月間も受けなければならない。人手不足が続く他の施設では、なかなか研修に出すことができない。

なぜ、旭ヶ丘園では、研修に出すことができるのだろうか。

旭ヶ丘園からは、桜島が一望できる。

旭ヶ丘園の職員は、辞めないんですよ。

一般的に、人手不足が続く介護施設だが、現時点での旭ヶ丘園に限っては、育児や介護などのやむを得ない事情を除いて自ら辞める人は殆どいないという。

-とにかく、ひとりひとりの職員を大切にする-

職員同士の仲が良くなければ、いい介護はできない。オムツを替える、入浴の手伝いをするというようなことは、職員ひとりひとりに誇りと尊厳がなければとうていできない。

自分自身が大切にされて、初めて他人を大切にすることができる。というわけだ。だから、園長は、どんなときでも職員・利用者ひとりひとりに声をかけてまわる。

米盛大翔君の絵

旭ヶ丘園地域交流スペースの一角に飾られた「米盛大翔君」の絵。

2歳の時、知的障碍を伴う重度の自閉症スペクトラムであると診断された大翔君。お母さまのお話によると、大翔君の絵をめぐっては、社会の中で心折れたことが多々あり、ここ数年来自宅奥に仕舞われたままだった。

ところが、旭ヶ丘園に来て「ここなら大翔の絵を飾って頂ける!」と直感したと言う。

「一歩を踏み出しては(相手との)気持ちの違いに気づき、思いがけない崖に突き落とされるようなことの繰り返しで…疲れていた。園田さんの言葉には、その私の時間にあったことを包み込むように認めてもらえる安心感があります。」と。

数字は追い求めない。

「利用者の尊厳を大切にしなさい。」とか、「結果を出しなさい」とか、ましてや「数字を上げなさい。」とは、言ったことがない。全ては、結果に過ぎないという。

防水シーツ使用枚数は、今年少し上がったんですよ。どうしても防水シーツを使用しなければならない方が入居されたから。でも、数字は上下するのが自然でしょ。だから、そのことについて一言も言ったことがないんです。

職員が継続的に…

職場風土・職場環境が良く、職員間の関係性が良好であることは離職率を下げることに繋がる。職員が継続的に働くことで、結果的にスキルやノウハウが向上する。

職員同士の信頼関係が厚くなると「一人でも多くの仲間に高い資格を取らせてやりたい!」という思いやりや助け合いの精神が自ずと生まれ、職員自らの発案で長期の養成期間を要する研修などに同時に複数人出す態勢を編み出し、多くの資格者を誕生させることが可能となった。

その結果、看護師の居ない夜間にも必ず吸痰資格者を配置することで、他施設がなかなかお受け入れ出来ないような医療依存度の高い方々(経管栄養、腹膜・血液透析、慢性呼吸器疾患、気管切開、呼吸器装着、ALS…など)をも引き受け可能な施設へと成長を遂げることが出来た。

職員の資質向上はそれだけではない。嘱託医を在宅支援診療専門医に変更。看取りケア体制を強化し、この4年間100%の看取り率を誇る。

また、歯科も摂食・嚥下の専門歯科医に変えた。歯科医と多職種が協働で嚥下能力の衰えた高齢者ひとりひとりの摂食・嚥下状況を内視鏡カメラで確認し、適切な個別ケアを実施している。

その結果、それまで多数発生していた誤嚥性肺炎の罹患者が、年間1~2名程度にまで激減した。

無駄な薬をやめる、むやみに病院に行かないことを徹底。

十数種類もの薬を服用していた要介護5の人が、旭ヶ丘園に来て、無駄な薬をやめることなどで、要介護2にまで下がった例もあるという。

 

「経営」という観点からも、むやみに病院に行かない、看取りケアを実施することなどで、ベッド稼働率がほぼ100%まで向上。好循環がうまれている。

地域とつながる。社会福祉資源とつながる。

いい意味で余裕ができたからこそ、現場で利用者のケアを担当するのではなく、特別養護老人ホームと地域や病院等の社会福祉資源とを繋ぐ【地域連携室】を創設し、その中に在宅課の課長・係長を置くことが可能となった。日々の生活を支える場として、居心地のいい空間をつくるためだ。

うちの家族会には、毎回ほとんどの家族が参加するんですよ。」

園田園長は、嬉しそうに語る。

 
平成27年5月に末期癌で病院から入所されたおじいちゃんは、「孫の結婚式に出席したい!祝ってやりたい!」その思いだけが、彼の生きる唯一の力になっていた。

だが…予定されていた結婚式の日までもちそうにない。

そこで、職員たちは一計を案じた。

結婚式の前撮りの日に、ウェディングドレスとタキシード姿の二人に来園してもらい、玄関から2階までの長い廊下を赤絨毯で敷き詰め、旭ヶ丘園地域交流スペースでプチ結婚式を挙げたという。

利用者・家族・職員一丸となって迎えたプチ結婚式は、感動の涙で溢れた。それからほどなくして、ご家族・職員の見守る中、静かに息を引き取られた。お孫さんの結婚式まであと18日だった。

 

●マラソンに参加

 昨年3月、第一回鹿児島マラソンに、旭ヶ丘園スタッフ5名が参加した。

テレビでそれを見ていた入所者から「私にも参加できるマラソン大会はないの?」と尋ねられた。職員はあちこち探し、大会実行委員会に交渉を重ねた。

5月には「えい新茶・大野岳マラソン大会」に平均年齢87歳のおばあちゃん4名・職員7名の合計11名で参加、3キロコースを完走したという。

ICT導入へ

旭ヶ丘園では昨年3月よりICTツール「Teachme Biz」を導入。これは紙ベースではない、画像と動画を使ったスマホ・タブレットのデジタルマニュアル。現在、旭ヶ丘園では300近いマニュアルが作成されている。介護という仕事は「人 対 人」の超アナログな仕事。その超アナログな仕事をする時間を生み出す為に、超デジタルなシステムを導入した。

この「Teachme Biz」の担当責任者は介護福祉士の国家資格をもつ事務職員。その想いは「まずは法人全体で分からないことがあればタブレットでマニュアルを検索するという文化を浸透させ、うまく運用することで、対人援助の時間が作れる。このことを内外に広く発信し、人手不足に悩む介護業界の明るい未来への礎を築きたい…。今はその未来に向かいチームと共にコツコツとどんな事でも画像を撮ってマニュアル化していくという地盤固めの真っ最中です!」と語る。

 

 

地域包括ケアシステム構築=【みま~も・かごしま】参画

旭ヶ丘園では地域包括ケアシステム構築の実現を目標に更なる改革をすすめている。

これまでも施設サービスで培った経験を活かし、医療依存度の高い方へも対応できる在宅系サービスの拡充を図りつつ地域を繋ぐ活動を展開してきたが、このたび「みまーも・かごしま」に参画することになり、更にその加速度は増すと予想される。

サテライト南事務局として見守りキーホルダーを使った認知症高齢者見守りネットワークの普及活動を今後積極的に進めていく。また、子供からお年寄りまで幅広く地域の繋がりを強くする活動等も展開しており、今後更に力を入れて行きたいと語る。

H29年4月。新たな拠点として、谷山中央地区に住宅型有料老人ホーム縁側をオープン。「縁側って、地域に住む高齢者や、子どもが気軽に集まって、すごく温かくて…そう、イメージとしては、『ぽかぽか暖かい陽ざしと人の集まる居場所』だったと思うんです。

それが、今やあまり見かけることのなくなった縁側。

それを、地域に作りたい。そんな暖かい居場所をと想い、20周年という大きな節目に旭生会の、スタッフの想いの結晶である【居場所】を作ることにしたんです。」と園田さんは語る。

 

【尊厳に立つ】

「尊厳に立つ」旭ヶ丘園の入口に掲げられた言葉だ。まず初めに、働く職員一人ひとりの尊厳をたいせつにします。大切にされた職員の手の先、顔の先から出るケアは温かく慈愛に満ちて、ご利用者の尊厳をたいせつにするに違いありせん。

高齢化が進む日本のひとつの道標がここにあるのではないだろうか。

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編集部より:この記事は、鹿児島県長島町副町長、井上貴至氏のブログ 2017年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『「長島大陸」地方創生物語~井上貴至の地域づくりは楽しい~』をご覧ください。