【映画評】トッド・ソロンズの子犬物語

アメリカ中を彷徨うことになる一匹の可愛いダックスフンド。まず病弱な子どもがいる一家に引き取られるが、あまりにも問題を起こすため、たちまち別の人の手に渡る。崖っぷちの映画学校講師兼脚本家、大人になっても自分探しを続ける女性、偏屈な老女。ダックスフンドは、そんな問題山積みの冴えない飼い主たちの間を渡り歩くことになる…。

アメリカ中を旅する一匹のダックスフンドを通して愚かで残忍な人間の本質を浮き彫りにするオムニバス形式の異色作「トッド・ソロンズの子犬物語」。ほのぼのとした邦題がついているが、何しろ監督がヘンテコな映画ばかり作ってはファンを熱狂させているインディーズ映画の雄トッド・ソロンズだ。当然、動物で癒される話などではない。ダックスフンドはいわば神の視点で、しょうもない人間のしょうもない人生をオフビートな笑いでスケッチしていく。

思い出すのは孤高の巨匠ロベール・ブレッソンが、ロバの一生を通して人間の本質や原罪を描いた名作「バルタザールどこへ行く」である。むろんブレッソンの持つ崇高さは、ソロンズ風味のブラックな笑いに還元されてはいるが。名優たちが暴言を吐きまくるエピソードはどれも味わい深いが、ラストに登場するエレン・バースティン扮する老女が、過去の“もしかしたらこうだったかもしれない”自分に出会うシーンは、幻想的な優しさに満ちていた。そんなしんみり感を、唐突でぶっ飛ぶ残酷シークエンスで締めくくり、ドン引きさせる。この露悪趣味がたまらない!何といっても一番シビれたのは、わずか88分の上映時間に挿入されたインターミッションである。緑の大地を、吹雪の山裾を、時には都会の喧騒の中を、スタスタと横切る足の短いダックスフンドの後ろには、西部劇風のメロディーが高らかに流れ、受難の旅を物語る。あぁ、このセンスに爆笑必至。忘れられない1本になりそうだ。
【70点】
(原題「WIENER-DOG」)
(アメリカ/トッド・ソロンズ監督/ダニー・デヴィート、エレン・バースティン、ジュリー・デルピー、他)
(ユニーク度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月23日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。