与野党が一致して始めた教育ポピュリズムに対する私の批判は予想通り不評だが、論理的な反論は一つもなく、「日本がこれから知識社会で生きて行くには教育投資が必要だ」という類の建て前論が多い。
もちろん教育は重要だが、それは大学教育とは限らない。Economist誌も指摘するように、ここ30年でエリート大学卒の賃金が30%以上も上がる一方で、カレッジ(無名私大)卒の賃金は下がっている。これは教育の効果(人的資本)より学歴の効果(シグナリング)のほうが大きくなってきたことを示す。
教育投資に対する収益率が最高なのは幼児教育だが、大人にも効果的な職業教育がある。図に示すように、アメリカでは高賃金の求人の49%がコーディング(コンピュータのプログラミング)能力を求めている。過去5年間にデータ分析の求人は372%増え、データ画像化の求人は2574%も増えた。
ホワイトカラーや官僚のような認知的能力はコモディタイズして人工知能などで代替できるが、個人向けサービス業に必要なのは、社交能力や学習能力などの非認知的能力だ。これを大人になってから訓練することはむずかしいので、幼児はなるべく早くから他の子供と集団で教育したほうがいい。
ほとんどの学問は基本的に娯楽なので、大学のキャンパスに学生を集めて無理やり教える必要はない。他方で労働者が職業訓練を受けるチャンスは限られており、学位などのインセンティブもない。労働市場を流動化するためにも、職業訓練のオンライン教育(MOOC)を強化し、中世のuniversityに帰るべきだ。