【映画評】ラ・ラ・ランド

渡 まち子

夢追い人が集まる街ロサンゼルス。女優の卵のミアは映画スタジオのカフェで働きながらオーディションを受けているが落とされてばかり。一方、場末のバーで、ピアノを弾いているセバスチャンは、いつか自分の店を持ち、思う存分大好きなジャズを演奏したいと願っていた。そんな二人が偶然出会い恋に落ちる。互いの夢を応援し合いながら一緒に暮らし始めるが、セバスチャンが生活のために加入したバンドが売れたことから、二人はすれ違いはじめ、溝が出来ていく…。

女優の卵と売れないピアニストの恋の顛末を華麗な歌とダンスで描くミュージカル「ラ・ラ・ランド」。往年のハリウッド製ミュージカルへのオマージュをふんだんに取り入れながら、いつの時代も変わらない、夢を追う若者たちの揺れ動く心情を組み合わせる。一見クラシックなスタイルに思えるが、「セッション」で緊張感あふれる音楽ドラマを作り上げた俊英デイミアン・チャゼル監督は、そこに21世紀ならではの息吹を吹き込んだ。仕事へのこだわりと妥協、キャリアや野心とが、恋愛の幸福や不安と共にせめぎ合う物語は、非常に現代的である。ストーリーはとてもシンプルで、いわゆるボーイ・ミーツ・ガールもの。同時に、映画や芸能界の舞台裏を描くバックステージものでもある。アーティストとして自分の夢を追うべきか、あるいは現実と妥協すべきか。仕事の浮き沈みが同じタイミングならば、ミアとセバスチャンがすれ違うこともなかっただろうに。

運命のいたずらに翻弄される二人の姿に、ふと「シェルブールの雨傘」が重なって見えたりもする。出会いから恋の喜びを歌い上げる前半は、ダイナミックでエモーショナルな魅力にあふれ、流麗な映像に目を奪われる。だが圧巻はやはりラストの15分だ。人生の“もしも…”が怒涛の歌とダンスで表現され、感動と興奮は頂点に達するだろう。これこそ観る者を幸せにする映像マジックと呼ぶべき映画の力だ。主演のエマ・ストーンとライアン・ゴズリングの見事な演技と、歌と踊りにも魅了される。懐かしいのに新しい、新たなミュージカル映画の傑作の誕生だ。
【95点】
(原題「LA LA LAND」)
(アメリカ/デイミアン・チャゼル監督/ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、J・K・シモンズ、他)
(映像マジック度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月24日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。