「平均駐在期間は5年だ。ということは、5回は着るチャンスがある。レンタル料5回分よりは買った方が安い」と考えて、セビル・ローのとある店で中古のタキシードを買ったのが筆者のIPウィーク・デビューだった。30台半ばの身体にフィットしていたタキシードだが、体型変化により10年も経たずに着られなくなってしまった。だが足のサイズは変わっていないから、一緒に買ったエナメルの黒靴は履けるはずだ。あれは何処に行ってしまったのだろうか?
今朝のFT記事を読みながら、こんなつまらないことを思い出していた。
そう、2月中旬は、石油業界あげてのお祭り、IPウィークなのだ。
つべこべ言わずにFT記事 “Five points from International Petroleum Week”(Feb 23, 2017 around 13:00 Tokyo time) の要点を紹介しておこう。現在の石油業界を取り巻く課題がほぼすべて浮き彫りになっているいい記事だ。
・ロンドンのIPウィークは世界中から集まる業界関係者の脈拍を測るいい機会だ。35ドル前後に呻吟していた1年前には、葬儀の言葉の用意をしている人々もいたが、いまや病人は快方に向かっている。OPECの減産により55ドルに戻った価格のおかげで、米シェールの復活が見込まれるようになり、かつての “lower for longer” のマントラ(無意識に繰り返して口にする信念)は “wait and see” に置き換えられた。
・これまで次の5つがIP週間での話題だった。
原油価格:
今年になってブレント原油価格は53~58ドルの狭い範囲で動いているが、これが長続きすると思っている人はほとんどいない。Edward Morseを初めとするCitiのアナリストたちは、市場には記録的な買い持ちを積み上げているヘッジファンドが利食いしてくるという脆弱性があるものの、年末までには70ドルを試すだろうと見ている。OPECの減産実施が感じられるため、「今年は急速にリバランスが進行する」可能性がある。長期的には、OPECは破れたサッカーボールを修繕した、と見る多くのトレーダーたちと同意見だ。彼らは、今年は価格回復により米シェールは50万BD増産となり、来年の価格を下押しすると見ている。ブル(強気派)とベア(弱気派)は、ゲームチェンジャーとしての米シェールの性格は、過去10年と比べると変化しており、さほど劇的なものではなくなったと見る点で一致している。100ドルへ戻ると見るのは、ひたむきな逆張り投資家にのみのようだ。
トレーディング:
低油価をエンジョイしたのはトレーダーたちだ。増加した価格変動性(volatility)といわゆる “carry trades” の機会を利用して、安い現物を買い込み、価格が回復するまで在庫し、大儲けをしたことは誰もが気が付かずにはいられなかった。価格が回復したため、トレード(で金儲けすること)は難しくなった。(そんな中)ライバルたちが価格下落にもかかわらず利益を上げているのを見て、伝統的に他社の石油を取引することを拒んでいた世界最大の石油会社エクソンモービルがフルスケールのトレーディング部門の創設を決めた。シェル、BP、トタールはこの動きを注視している。ノルウエー政府の支援を受けているスタットオイルは、自社の生産、精製、在庫からの利益を極大化するために、トレーディング部隊の拡充を決めた。同社の社長Jens OklandはFTに「トレーディング部隊の拡充は・・・変動サイクルへの強靭性を強化する」と語った。
ベンチマークとしてのブレント原油:
価格評価機関S&P Global Plattsは、ベンチマークとなっているブレント原油(Dated Brentと呼ばれる、受渡し日が確定している複数の北海原油)の構成油種としてスタットオイルのTroll原油を追加することを決めた。この10年間で最大の修正だ。目的は、(ブレント原油を構成している他の4種類の)北海原油の生産量が減少しているので、(対象となる原油の量を増やして)価格の不正操作への抵抗力を増すことだ。Trollは20万BDの生産量で、バスケット(ブレント原油)の20%に相当する。この決定を多くのトレーダーは賛成しているが、中にはそれぞれの原油の油種間格差が織り込まれていないと問題点を指摘するトレーダーもいる。
OPEC:
OPECは予測以上に遵守し、価格を50ドル以上に押し上げたが、非OPECの大産油国は約束したほどには減産をしていない。OPECのバルキンド事務局長は、非OPECの協力を完全なものにするという “teething issues(歯が生え始めたばかりの問題)”があるという。「Conformity(調和、順守)は・・・非OPECにとって新しい課題だ。過去に一度としてそのようなメカニズムにしばられたこがない」。1月の生産データによれば、(減産に)参加したOPEC諸国は90%遵守したが、非OPEC11カ国は、ロシアを含め、約50%だった、とカタールのエネルギー相ムハンマド・アル・サダは語った。
再生エネルギーとライバル:
(IPウィークの中心開催箇所である)グロブナーハウスホテルの外に駐車されている(電気自動車)テスラから、数分離れたところにあるショールームに展示されているBMWi8シリーズまで、石油業界が急激に変化する世界で事業を行っていることを思い出させるものが数多くある。BP上流部門のトップであるBernando Looneyは、代替エネルギーがコストを下げていることにみられるように、石油業界は激しい競争にさらされている、という。これは受け止めるべき変化だ。「再生エネルギーのコストダウンは疑いがないことだ」「間欠性(intermittency、太陽光や風力発電は自然要因により発電量が一定しない、という意味か)や在庫能力の問題があるが、無視することは賢いことではないだろう」。IPウィーク参加者の多くは、再生可能エネルギーは化石燃料を補足するもので代替するものではなく、新興国の増加する消費が石油需要を支え続けると見ている。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年2月24日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。