意外に知られていない、相続から排除する方法

荘司 雅彦

写真ACより(編集部)

最近は、遺言書を書く人が増えています。
その背景には新聞や書籍による啓発効果もあるのでしょうが、何といっても自分の財産を特定の相続人に相続させたいという気持ちが顕在化してきたのでしょう。

ところで、自分に迷惑ばかりかけた不良息子には絶対に相続させたくないというような場合、どのようにすればいいでしょう?

民法892条は、「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる」と規定しています。

しかし、家庭裁判所に申し立てるのは面倒だし、そのことを知った不良息子が押しかけてきて平穏な生活を破壊されては困ると考えてか、多くの人は排除の申立をためらいます。

せいぜい、遺言書に「全財産を遺言者の二男二郎に相続させる」と書いて、「長男太郎は、高校生の頃から警察沙汰を起こしては遺言者を困らせ、家庭内でも毎日のように大声で暴言を浴びせては暴れまわり、挙句の果てには歯科大学の高額な学費までせびったのだから、父の意思を尊重してほしい」と付記するか、具体的に生前に渡した金額が分かっていれば「生前に学費5000万円を特別受益として渡している」と記載して遺留分がないと記載する場合が多いのではないでしょうか?

「この程度精一杯ですよ」とアドバイスする知識不足の公証人もいるかもしれません。

特別受益で遺留分がなくなればいいのですが必ずしもそうなるとは限りませんし、生前に特別受益を渡していなくとも非行が著しいので相続させたくないという場合もあるでしょう。

最も効果的なのは、公正証書遺言で「排除」の意思を明確にしておき、併せて排除を決意した詳しい事情等を事実実験公正証書として作成しておいてもらうことなのです。

遺言書本文は「1 遺言者は遺言者の有する財産全部を遺言者の二男二郎に相続させる。2 遺言者は、遺言者の長男太郎(昭和 年 月 日生)が遺言者に対し、毎日のように暴言を吐いて侮辱し暴れ、警察沙汰を起こしては遺言者の名誉を傷つけ…ことから、長男太郎を推定相続人から排除する」としておき、侮辱や虐待等の具体的な事実を別途公証人に事実実験公正証書として記録しておいてもらうのです。

死後、二男の二郎が遺言書と事実実験公正証書を添付して家庭裁判所に「排除」の申立をすれば、公正証書の内容と事実が著しく異なっているような場合を除けば、排除の審判がなされるでしょう。

親不孝な子供に悩まされ、配偶者から「あの子供が相続に関わらないように、今のうちに何とかしておいて欲しい」と頼まれている人が案外少なくないのではないでしょうか?

公正証書での「排除」の手続は案外知られていないので、是非とも検討してみて下さいね。
もっとも、親子で意見が合わなくて喧嘩が絶えないというどこにでもある普通のケースでは「排除」は認められませんので、詳しいことは公証人に尋ねてみましょう。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。