共和党・税制改革のドン、国境税調整を語る

渡瀬 裕哉

ワシントンDC・全米税制改革協議会(ATR)のグローバー・ノーキスト議長と懇談

本日はトランプ政権の一般教書演説の日です。それに先立ち2月22日にワシントンDCにて、全米税制改革協議会のグローバー・ノーキスト議長と懇談の場を設けて頂きました。筆者とノーキスト議長は8年間の知己であり、現在でも渡米の際には政治・経済の見通しを伺う機会を頂いております。

グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長(ATR議長)とはどのような人物なのか?

グローバー・ノーキスト議長が率いる全米税制改革協議会(ATR・Americans for Tax Reform)は、共和党連邦議員の税制改革に対して最も影響力を持つ米国のグラスルーツです。

グローバー・ノーキスト議長はレーガン政権大統領からの依頼で同団体の活動を開始し、共和党議員らはグローバー・ノーキスト議長の顔色を常に見ながら税制改革の議論を行っています。共和党議員は選挙に際して同団体が提示する「納税者保護誓約書」という全ての増税に反対する署名にサインさせられており、当選後もATRによって連邦議会における言動を常に監視されています。

ATRは毎週水曜日にワシントンDCの事務所で全米から保守派のリーダーを招く「水曜会」を開催していることで知られています。同会は招待制・非公開・マスコミ無しで実施されており、様々なテーマについて保守派の運動方針が決まる場となっています。筆者も出席者としてカウントして頂いていますが、毎回200名程度の運動のリーダーが集まって濃密な議論が行われています。

グローバー・ノーキスト議長は、水曜会に集まる保守派のネットワークと影響力を行使し、共和党の連邦議員の生殺与奪の権力を事実上握っています。したがって、グローバー・ノーキスト議長の承認が無ければ予算・税制を司る共和党議会は身動きを取ることができません。まさに共和党保守派のドンの一人と言えます。

共和党税制改革のドン・日本からも大注目の「国境税調整」についての見通しを語る

トランプ政権の税制改革案として最も注目されている項目は「国境税調整」です。ノーキスト議長は連邦下院でポール・ライアン議長やブレイディ歳入委員会議長などと税制改革について議論を行っています。

ノーキスト議長によると、減税の方向性については下記の通り。

・トランプ大統領と連邦議会は米国全体の減税を押し進めることで合意している。
・連邦の所得税・法人税をカットすることで世界的に競争力がある税制改革を実行している。
・税制改革は直近8年間よりもビジネスへの投資を促すものになるだろう。
・また、所得税・法人税の減税だけでなく相続税やAMTの廃止を含むものになるだろう。
・税制全体のパッケージで、約2.5兆ドル(10年間)の減税になり、非常にpro-growthなものである。

そして、懸案の国境税調整については非常に前向きであり、

・税制改革案は国境税調整を踏まえた全体的なパッケージの形として提案される。
・「国境税調整」が導入される最大のポイントはこの仕組みから生まれる数兆ドルの税収にある。
・全ての税制改革計画に互いに合致するのは国境税調整がパッケージに含まれているからである。

国境税調整に関する懸念事項については、

・国境税調整は実質的な増税ではないかと懸念する人もいるが間違っている。税制改革は輸出では減税して輸入に増税する一つのパッケージで全体で約2.5兆ドル(10年間)の減税となる。
・目標の経済成長の数字は減税や規制改革などもあわせてオバマの2%成長ではなく、レーガンのような4%成長を導くことにある。
・国境税調整を導入すると為替の敗北が是正されて実際に米国の消費者に影響を与える、という経済学者の見解もあるが、実際には少し時間がかかることになるだろうと思う。

国境税調整が連邦議会に提出されることについて、
・実は連邦下院と大統領はほぼ税制改正案に同意している。たしかに、連邦議員の中には難色を示している人が数名いるが、税制改革全体のパッケージとしては非常に魅力的である。
・仮に国境税調整以外の要素をパッケージの中に代わりに入れてシステム全体が機能する場合、私はそれについてOKだと言うだろう。ただし、それは劇的に支出を削減して他に税収を上がる方向があればの話だが。
・国境税調整を批判する人々は現段階ではレパトリ課税による課税案を出しているが、私は国境税調整のほうが良いと思っている。

連邦議会での議論の見通しについては、

・税制改革案の話は今後6カ月で議論され、法案が可決することになるだろう。連邦下院とトランプ大統領が同意している現在の案になる可能性が極めて高いが、若干の変更の可能性も残っている。
・ 上院は税制改革の議論に積極的ではない(国境税調整が好きではない)が、税制改革のパッケージ全体を判断することになるため、国境税調整のみを見て判断するわけではない。
・下院が税制改革案を大統領に提出した時、トランプ大統領は「I want this」と発言しており、連邦下院は「We pass this」と発言している。
・ 税制改革案の背景として、下院での可決見通し、大統領のI want this nowという発言、ビジネスコミュニティのthis is goodという発言、スモールビジネスにもビッグビジネスにもgoodという意見、が存在している。
・上院やウォルマートは国境税調整が好きではない、と言っているが、数千・数万のスモールビジネス・個人契約者・プロフェッショナルらは支持しており、それは非常に強力である。
・仮に上院が修正したいのであれば、それは早く始める必要があるだろう。その可能性は残っているが、全体のパッケージを見直す作業になるので非常に困難である。今回の全体パッケージは経済にとって良くデザインされた計画である。
・ 彼らが「国境税調整は好きではない」と言うならば、私はその気持ちは理解していると言うだろう。しかし、投票は国境税調整のみではなく、全体パッケージに対してのものである。

と述べられています。いかがでしたでしょうか。

日本企業にも大きな影響を与える「国境税調整」に対する共和党のドンの発言

今回のワシントンDC訪問では「国境税調整」について、共和党の税制改革のドンの話を直接聞きたかったので、ノーキスト議長と非常に濃密な時間を過ごさせて頂きました。

一般教書演説の中でどこまで税制改革が触れられるかはわかりませんが、トランプ政権の改革の最重要項目であることは間違いありません。この他にもスティーブ・バノン首席戦略官やトランプ政権への保守派の見解など、共和党内の最前線での政局のお話を伺ってきましたが、それについては別途ブログに書くか、それとも講演のような形で皆さまにお伝えしていけるようにしていきます。

グローバー・G. ノーキスト
中央公論社
1996-06

 

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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