【映画評】クリミナル 2人の記憶を持つ男

渡 まち子

CIAロンドン支局のエージェント、ビリーが、国際秩序崩壊を狙うテロリストを追う任務中に命を落とす。ビリーはアメリカ軍の核ミサイルを遠隔で操作することが可能な天才ハッカー、ダッチマンの居場所を唯一知る人物だった。ダッチマンと接触することを企てるテロリストより早くダッチマンを探し、世界の危機を救う。そのためは、禁断の脳移植手術によってビリーの記憶を他人の脳に移植しなければならない。移植の対象に選ばれたのは、凶悪犯の死刑囚ジェリコだった。記憶が失われるまでのタイムリミットは48時間。ジェリコは凶悪犯の自分と、CIAエージェントのビリーの2つの人格に引き裂かれながら、テロリストとの壮絶な闘いに巻き込まれていく…。

殉死したCIAエージェントの記憶を脳に移植された死刑囚が、テロリストを追うスパイ・アクション「クリミナル 2人の記憶を持つ男」。記憶をモチーフにした映画は数多くあるが、本作は脳移植によって2つの人格がせめぎあい、さらに記憶が失われる48時間以内にテロを阻止するという、タイムリミット・サスペンスだ。人間らしい感情が欠落しているという条件ゆえに、他人の記憶を埋め込まれる死刑囚ジェリコを演じるのがケヴィン・コスナーだ。悪役を演じてもどこか“イイ人”を感じさせるコスナーだけに、1人の人間の中に善と悪が同居するという難役でも、善の部分が徐々に際立って共感を得るキャラクターに仕上がっている。

事件解決のため、時に非情な手段に出るロンドン支局長とは対照的に、実験段階だった脳移植手術を強引にやらされる医師は、まだ未完成の施術に悩みながら、ジェリコを気遣う優しさがある。それぞれをゲイリー・オルドマン、トミー・リー・ジョーンズという名優たちが演じているのも贅沢だ。実際この地味な作品は、意外なほど豪華キャストが顔を揃えていて、ちょっと驚いてしまう。脳と記憶の移植というのはあくまでSFのレベルだが、善悪はおろか、感受性も心さえも持ち合わせていないジェリコが、人間性に目覚めていく展開は、現代のフランケンシュタインのようでもある。スパイアクションとしては少々物足りないし、ラストはご都合主義にも思えるが、人とは呼べなかった人間が、魂を獲得する心の旅路としてみれば、なかなか味わい深い。
【60点】
(原題「CRIMINAL」)
(米・英/アリエル・ヴロメン監督/ケヴィン・コスナー、ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ、他)
(スパイもの度:★★☆☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年3月1日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。