豊洲で窮地に陥った東京都の小池百合子知事が、住民投票に持ち込むという話が出てきました。今やったら、どうなるでしょうか?
朝日新聞の世論調査(2月18・9日実施)によれば「豊洲への移転を今後も目指すべきだと思いますか。やめるべきだと思いますか」という質問に対して、「移転を目指すべきだ」が29%で、「やめるべきだ」が43%だから、豊洲移転は中止になるでしょう。
GEPRの中西準子さんの記事で印象的なのは、「あんな水で洗った刺身なんか食べられない」という主婦の言葉です。もちろんこれは間違いで、豊洲で井戸水は使いません。これはよい子でもわかると思いますが、こういう人々がワイドショーの視聴者であり、小池知事の支持者なのです。
それは当たり前です。すべての国民がいつも政治について考えることはできないし、望ましくもありません。人々の生活には政治より大事なことがたくさんあるからです。自分に判断できないことは専門家にまかせ、情報コストを節約するのが議会制度です。
歴史を動かすのはそれを書く知識人ではなく、圧倒的多数の大衆です。彼らが戦後ずっと自民党を支持してきたのも、その政策を知っていたからではありません。そもそも自民党には、現状維持以外にまとまった政策はありません。国民は政治の中身を知らないから、自民党に投票しただけです。
平時には国民は政治に無関心なので自民党を支持しますが、危機のときはワイドショーを見て、小池さんのような見た目に格好いい人を支持します。それは昔も今も同じですが、今はインターネットで大衆に迎合するポピュリストが支持されやすくなりました。
民主政治は衆愚政治になりやすいので、多くの大衆が直接に意思決定しないように設計されています。「豊洲の地下水で刺身を洗うことはない」という事実を知っている人は都民の半分に満たないでしょうが、それでいいのです。8月の都議選はそういう平均的な大衆のためにあるので、住民投票なんかするのはバカげています。