あれから6年経った今なお、日本に重くのしかかっていることがある。東京電力福島第一原発の問題だ。
先月には、メルトダウンを起こした2号機にロボットを投入した。しかし障害が多すぎて、目標としていた原子炉圧力容器下には到達できなかった。
国と東電の作った廃炉工程表がある。そこには、2018年に溶けた燃料の取り出し工法を決定するとある。さらに2021年には、1~3号機のいずれかで、溶けた燃料の取り出しを開始するという。だが、先行きはまったく不透明だ。
こうしているあいだも汚染水は出続けている。保管タンクは1000個を超えたが、まだこれからも増えていくのだ。
廃炉費用についても問題は山積みだ。11兆円と見積もっていた廃炉費用は、国が新たな試算を行い、昨年末の時点で21.5兆円と倍増した。
1970年代、僕は原発反対派、原発賛成派を問わず、数多くの人に取材をした。その内容を1976年、『原子力戦争』という小説にまとめた。映画にもなった。
2011年の3.11後も、僕は学者、政治家、原発に関わる企業、可能な限り多くの人に話を聞いた。事故が起きて、日本はもっともっと原子力発電について真剣に考えなければならない、と思ったからだ。
最近になって、原発は「不採算事業」だという言い方がされるようになった。東芝の経営問題が起きたからだろう。東芝は当初、2月14日に決算発表する予定だったが、直前に延期した。東芝の経営が深刻化しているのは、アメリカの原子力関連企業のウェスティングハウス買収問題が大きい。
僕は3.11後、原発事業に関わっている日立、三菱重工、そして東芝を取材した。取材中、三菱の幹部から聞いたことがある。三菱重工もウェスティングハウスを2000~3000億で買収しようとした。だが、「先方が価格を釣り上げてきたので止めた」という話であった。ところが、東芝はそのウェスティングハウスを、なんと6600億円で買収したのだ。つまり、東芝はその「釣り上げ」に乗った、ということだろう。
もちろん東芝は採算が取れると見込んで買収に踏み切ったのだろう。だが、ウェスティングハウスが2008年に受注した米国内の原発4基の建設が、2011年の福島原発事故以来、安全基準が厳しくなり、大幅にコストアップしてしまったのだ。その結果、ウェスティングハウスの経営は深刻な状況に陥った。
簡単に「原発ゼロ」と言うのは、無責任だと僕は思う。ではエネルギー問題をどうするのか。石油が輸入できなくなったとき、どうするのか……。
しかし、現実的に、核燃料廃棄物は行き場がない。核廃棄物の再利用を目的に開発されていた「もんじゅ」も、トラブル続きである。原発を推進する政治家や学者たちも、また無責任だと感じる。さらに国もまた、今のままで原発事業の輸出を推進してよいのか。
原発をどうするのか。すでに民間企業レベルでどうにかなる問題ではないだろう。福島の悲劇から6年経って、さまざまな問題、現状が見えてきた。今、政治家たちは、与野党の垣根を超えて、原発について、真剣に議論すべきではないか。議論しにくいこの問題に、正面から立ち向かう。このことが、あの事故で家を奪われた人たち、故郷を奪われた人たちへの誠意なのではないか。僕は、そう思うのである。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年3月18日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。