浜渦氏「辣腕」のコッケイな実態 --- 宇山 卓栄

寄稿

都議会サイトより(編集部)

「影の最高実力者」

19日の都議会百条委員会で「責任をお感じになられませんか?」との音喜多都議の質問に対し、浜渦氏は気色ばみ、右手を前に突き出しながら、以下のように大見栄を切った。

「どこに責任があるんですか!そういうあっただ、なんだ言うけれど、そういうことはありません。当時はね、ここにも数人おられますけど、よくぞ東京ガスと交渉をまとめて頂いたと皆さんから称賛されたんですよ。今から振り返っての話じゃないんです!」

最後は振り上げた右手が下ろされた時に、勢いで台に当たった。「ゴン」と。

最近は見なくなったが、ほんの10年ほど前まで、こういう男気のある「ヒトタラシ」型の要人が政界にも財界にも居たものだ。

東京ガスとの土地売買交渉が浜渦氏の「辣腕」に託された。浜渦氏は2000年、副知事に就任し、その「辣腕」を振るい、人望を集めながら、「影の最高実力者」として都庁に君臨していたという。

密約

困難を極めていた土地売買交渉が前進したのは浜渦氏の「辣腕」によるものだと、皆が思っていた。だが、実体は全く違っていた。「辣腕」などということとは一切関係がない。最近になって、実にお粗末なカラクリが明らかになってきた。

東京ガスが土地売却を嫌がっていた最大の理由は「瑕疵担保責任の追及のリスク」だ。いったい、いくら掛かるかわからない土壌汚染対策費、瑕疵担保責任を背負ったままでは永々と対策を講じなければならない義務が生じる。経営者ならば、こんなリスクを背負って、土地売却に応じるわけにいかないのは当然だ。だからこそ、東京ガスは瑕疵担保責任の免除を土地売却の前提条件としていた。

土地売買交渉が前進した背景に、この条件を東京都が飲むという密約があったということが、百条委員会で見えてきた。

百条委員会のポイント

19日の百条委員会での、浜渦氏への音喜多都議の尋問で、以下のことが明らかになった。

○東京ガスとの「水面下」の交渉の中には、野村部長がいた

○野村部長は東京ガスとの間で、土壌汚染費用を免除する確認書を交わした

○東京ガス側はこの確認書により、売買契約に踏み切った

○この確認書の延長上に、2011年の瑕疵担保責任免除の協定に行き着いた

○浜渦氏はこの確認書の存在を知らなかった、都庁内部でも知られていなかった

音喜多都議の言う「確認書(当時、二者間合意と呼ばれたらしい)」こそが密約である。実にシンプルな話だ。瑕疵担保責任免除によって、東京ガスは気を良くして、売却に応じた。ただ、それだけの話だ。浜渦氏の「辣腕」などが、この実利的な交渉の中に、入り込む余地など本来、なかった。浜渦氏自身、この確認書を知らないと言っているのだから。

つまり、交渉を前に進めたものとは、浜渦氏の「辣腕」ではなく、役人の勝手な判断を許した浜渦氏のデタラメさである。

信用に値しない

浜渦管轄の交渉で、そのような確認書が交わされていたことを責任者たる浜渦氏が知らなかったこと自体が重大な行政過失であることは言うまでもない。結局、「辣腕」浜渦氏も、お粗末な石原氏のお仲間と言ってよいだろう。浜渦氏のように、「辣腕」だとか「豪腕」だとか評される人物には、カリスマ性が伴う。このカリスマ性の中に、緻密な事実の形跡が隠されてしまう。しかし、そのような個人の神秘性をひと度、外して、事実の形跡を冷静に見た場合、その実体が恐ろしくデタラメでコッケイなものである、ということにいつも気づかされる。世の中、「辣腕」などというものは、まず信用ならない。

今後の展開は

浜渦・百条に「新事実なし」などと報道されているがヒドい話だ。前述のように、音喜多都議の尋問により、委員会で大変な新事実が出て来ているではないか。報道は一体どこに目を付けているのか。

豊洲問題で、行政の過失があるとすれば、瑕疵担保責任を都が免除したこと、つまり、都民に損害を与えるような決定がくだされたことにある。そのような過失が今まさに、認定されつつある。

重大な過失が存在する蓋然性のある豊洲移転のスキームに、もはや何人たりとも、相乗りすることなどできない。相乗りすれば、過失を事実上、追認することになるからだ。

小池知事は豊洲移転の基準として、「都民の安心が得られるまで」と答弁。これもトンチンカンな発言だ。彼女の周りには有能なブレーンが居ないから、どうしても、こういう情緒論的発言が飛び出してしまい、それが許容される。

彼女は豊洲移転の基準として、以下のように言わなければならない。

行政上の過失の全貌を明らかにするとともに、関係者を処分・弾劾し、二度とデタラメな意思決定がなされることがない仕組みを作り上げ、それが法的に担保されることが確認されるまで、移転はない」。

豊洲移転延期・中止で、金銭的な損失を被るのは都民だ。仕方ない。それが都民にとってのツケだ。これまで、デタラメな都政をやってきた知事や、それをまともにチェックもできないバカ都議会議員を選んできた都民のツケなのだ。

著作家 宇山卓栄

1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。著作家。個人投資家として新興国の株式・債券に投資し、「自分の目で見て歩く」をモットーに世界各国を旅する。近著に『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『”しくじり”から学ぶ世界史』(三笠書房)などがある。