ローマ・カトリック教会のローマ法王フランシスコは5月12日から13日にかけ、ポルトガルの聖母マリアの降臨の地ファティマを訪問する。「3つの予言」で世界的に有名な巡礼地ファティマで聖母マリアが再臨して今年5月で100年目だ。それを記念してフランシスコ法王は就任後初めてファティマを訪ね、「ファティマの予言」を聖母マリアから受けた羊飼いの子供たちの2人、フランシスコ(1908~1919年)とヤシンタ(1910~1920年)の列聖式を挙行する予定だ。
キリスト教の教義では、「神の啓示」や予言はイエス時代の使徒たちで終わる。それ以降の「啓示」はあくまでも「個人的啓示」と見なされ、「神の啓示」とは一定の距離を置いて扱われてきた。その意味から言うならば、ファティマの「聖母マリアの予言」はカトリック教会でも異例の啓示と受け取られていることが分る。世界から毎年多くの巡礼者がファティマを訪ねてくる。
以下、「ファティマの予言」を簡単に紹介する。
聖母マリアは1917年5月13日、ファティマの3人の羊飼いの子供たちに現れ、3つの予言をした。特に「第3の予言」については世界の終末を予言しているという憶測が流れたが、新ミレニアムの西暦2000年、教理省長官であったヨーゼフ・ラッツィンガー枢機卿(前法王べネディクト16世)が「第3の予言はヨハネ・パウロ2世の暗殺(1981年)を予言していた」と発表し、「ファティマ」問題に終止符を打った。しかし、それ以降も「バチカンは第3の予言を依然、封印している」として公表を求める声が教会内外にある。当方は「聖母マリアの顕現80周年」の1997年、ファティマを取材したことがある。
聖母マリアは6回にわたり出現し、3つの「ファティマの予言」を3人の羊飼いに伝えた。第1の予言は通称「地獄の幻想」と呼ばれている内容だ。「地上は火の海となり、悪魔や人間の形をした魂が燃える炭のようになり、痛みのために叫び、うめき、絶望の中に陥っている」と地獄の様相が描かれている。
第2は「汚れなきマリアの魂の崇拝」といわれている内容だ。「地獄にいる無数の魂を救うためにも、私の汚れなき魂を崇拝しなければならない。私はロシアを汚れなき魂に奉納するために来る。もし私の願いが聞かれれば、ロシアは改心し、世界に平和が訪れる。もしそうでなかった場合、世界中に誤った教えが広がり、戦争、教会の迫害がさらに広がる。そして多数の民族が消滅する。しかし、最後には私の汚れなき魂が勝利する」
それから“第3の予言”だ。前述したように、ヨーゼフ・ラッツィンガー枢機卿は西暦2000年、「第3の予言はヨハネ・パウロ2世の暗殺を予言していた」と公表した。ちなみに、聖母マリアの予言を受け取った3人の羊飼いの生き証人だったルチア(1907~2005年)は、「第3の予言は喜ばしい知らせです。世界の終わりを告げたものでありません」と親戚関係者に漏らしている。第3の予言はヨハネ・パウロ2世の暗殺計画ではないことを強く示唆しているのだ。
問題は、なぜバチカンは「第3の予言」を公表できないのかだ。考えられる唯一の論理的推測は第3の予言が「イエスの再臨」を予言していたからだ。聖母マリアは当時、ルチアに「第3の予言は1960年前には公表してはなりません」と伝えている。換言すれば、イエスの再臨は遅くとも1960年以降には誰の目にも見える形で表れてくることを示唆したわけだ
この推測が正しいとすれば、バチカンが第3の予言の全てを公表できない事情が理解できる。偽イエスの出現を恐れるからだ。ルチアが述べたように、その知らせは喜ばしいものだ。世界の終わりでもない。しかし、公表すれば、世界の至る所に偽イエスが出てくる恐れがある。
「第3の予言」を公表しなかったラッツィンガー枢機卿はヨハネ・パウロ2世の死去後、第265代ローマ法王に選出されたが、生前退位を強いられたことはまだ記憶に新しい。
パウロ6世(在任1963~1978年)、ヨハネ・パウロ2世、前法王ベネディクト16世と歴代ローマ法王はファティマを訪ねた。そしてフランシスコが5月12日、13日にファティマを訪ねるわけだ(「ファティマの予言」2010年5月7日、8日、9日、10日参考)。歴代のローマ法王がファティマの巡礼に拘るのには理由があるからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。