森友学園騒動に「燃料」を投下したのは誰か

■森友問題炎上の導火線

衆参両院の証人喚問後は収束に向かうかに思えた森友学園問題。だがその場で明らかになった安倍首相夫人付職員と森友学園側のFAXのやり取りによって、事態はさらに長引く様相を呈している。

そもそも森友学園問題は2月9日、朝日新聞に掲載された〈学校法人に大阪の国有地売却 価格非公表、近隣の1割か〉と題する記事から始まったのだが、改めてよく見てみると、この記事は「非常によくできている」

①国有地の売却額→森友学園が買った土地の値段が非公表になっていた。調べてみるとどうやら豊中市が買った近隣の土地の10分の1の値段だった、と報じる。

②森友学園の教育方針→神道を柱にした「愛国的」な小学校の建設を計画していたと明記。

③安倍首相夫人が名誉校長→学園と首相夫人の「関係」を強調。

さすがは「火付けの朝日新聞」、お見事という他ない。問題の全ての発火点がこの記事に盛り込まれており、どこからでも燃えあがる導火線が初めから用意されていたことになる。

森友の購入した土地の値段の開示請求をしたと報じられている木村真豊中市議が「まあ(極右の学校を)つぶしたかっただけなんですけどね」とぶっちゃけている動画もあり、保守的な思想の学校をつぶし、さらに安倍政権にダメージが与えられれば御の字という点で、木村市議と朝日新聞の利害が一致したのだろう。

①の国有地の売却額についても、燃やす気満々の記述だ。森友学園が売却額を非公表にするよう希望したことは確かだが、一方で豊中市は実際には2千万円で土地を購入している。事情を詳らかにすれば単純に比較できるものかどうかは議論があるものの、記事として「隣は14億円なのに、こっちは1億数千万円なの?」と、そのまま受け取れば誰もが疑問に思う形で、一方の事実(豊中市への売却額)を隠しながら報じたことでロケットスタートに成功した。

その後は②がらみで森友学園系列の塚本幼稚園における教育勅語暗唱の様子や、運動会での「安倍総理がんばれ」の宣誓がテレビで報じられると、その映像のインパクトが多くの人の耳目を集めた。さらに虐待疑惑報道まで加わって、この点はさらに「小学校設立認可」問題を引きずり出すことに繋がっていく。

さらに国会では③から安倍首相や夫人の国有地売却、学校認可に対する関与が取りざたされることになった。その過程で、森友学園と安倍首相、さらに稲田防衛大臣の関係性にも「飛び火」した。

まさに朝日が引いた導火線の上で面白いように火の手が上がったのだ(その火が辻元議員にまで及ぶところまでは想定できなかっただろう。これまで大喜びで籠池ネタに飛びついていた民進党は火消しに躍起だ)。

■炎上の燃料は様々あったが……

もちろんそこには様々な燃料がくべられた。前述した幼稚園の映像はもちろん、中川淳一郎氏が指摘する籠池一家を始めとする登場人物のキャラの濃さ、著述家の菅野完氏や昭恵夫人、三通の契約書、「忖度」、夫人同士のメールのやり取りなどだ。新たな展開の材料が多々飛び出した証人喚問自体も、森友騒動を盛り上げるイベントの一つになってしまった。

だが騒動が初報から2カ月にもなろうかという今、本質から大きくずれる部分まで広がりながら、ここまで燃え上がった燃料は何だったかと考えると、誠に僭越ながら安倍総理自身の、なかでも二つの発言だったのではないかと思う。

A「私や妻、事務所は一切関わっていない。(設置認可や敷地の国有地払い下げに)もし関わっていれば首相も国会議員も辞める」

安倍首相としては自分の職を賭けることで、この問題に対する自身や妻の関与を強く否定し、国会での論議を収束させたかったものと思われる。「今は森友どころじゃないだろう」という思いもあったのかもしれないが、逆に言えば「森友問題程度に首相のクビ(いわば一国の行く末)」を賭けるべきではなかった。

事実、この発言が反安倍陣営の火に油を注ぐことになり、「どんなにみみっちいものでも『関与』を証明できれば退陣に追い込めるかもしれない」と期待させることになった。

さすがにこの点については、安倍首相を長く取材してきた山口敬之氏も「軽率だった」とコメント。『NewsWeek』(2017年4月4日号)の森友関連記事でも、首相のこの発言が森友疑惑の拡大を招いた一因だと解説している。もちろんこの発言を、問題の本質からずれた報道や国会議論の元凶とすることには一切くみしないが、要らぬ燃料投下だったことは指摘しておきたい。

■「しつこい」発言の余波

B「非常にしつこい」

これは「安倍晋三記念小学校」の名称について聞かれたくだりでつい口を突いて出たもので、「名称についてしつこく依頼された」と言いたい文脈だった。そもそも国有地払い下げや小学校の設立認可に首相や夫人がかかわっていないことを説明するうえで、籠池氏の人間性に言及する必要はないわけだが、あまりにも言葉の表現が悪かった。この点、実は稲田大臣も一緒で、関係が疎遠になっていることだけを話せばよかったのに、「大変失礼なことをされた」などと言ったばっかりにやぶ蛇となった。

何より問題なのは、この「しつこい」発言が籠池氏の「安倍首相からの100万円の寄付」発言に繋がっていると考えられる点だ(ただしこれも国有地問題の本質から外れた話題であるが)

証人喚問(参院)で「なぜ今になって、献金の話をしようと思ったのか」と聞かれた籠池氏は「安倍総理から『しつこい人』と言われ……」と述べている。「え、それだけ?」と思うかもしれないが、偉人、敬愛するとまで讃えていた人物からの人格否定ともとれる発言は本人にとっては重かったのだろう。

さらには、これまで「同志」である如くふるまってきた(稲田大臣を含む)政治家や保守系言論人が、こぞって「森友学園とは無関係」との無情な態度を取ったことも、籠池爆発に追い打ちをかけたと見られる(その破壊力は自身や学園、園児や保護者までも爆風に巻き込んでしまった)。

一方で、籠池氏は安倍首相からの献金について「墓場まで持っていくつもりだった」と述べているという。確かに、2月24日の安倍首相による「しつこい」発言から3週間近く、籠池氏はこの件を公言しなかった。

時系列で追ってみると、籠池氏の安倍首相・稲田大臣に対する態度が急変していることがわかる。3月8日にyoutubeにアップされた理事長の演説動画でも、また3月10日の会見でも、安倍総理の献金や稲田大臣との関係は口にしていなかった。動画でも「大阪府庁へ行け」と述べていた。ところが3月12日に菅野氏の直撃取材を受けると、インタビュー動画の公開に同意し(公開日は3月13日)稲田大臣との関係を暴露、続いて3月16日、「献金」発言をしている。

献金の真偽も含め当事者以外にはわからないことだが、証人喚問でも公明党・富田議員が〈(3月)10日から16日の間に何かがあったとしか考えられない〉と述べている。籠池氏には小学校開校計画の頓挫により背負う多額の借金や刑事訴追への心配もあったに違いないが(ただし仮差押えに対する危機感からの暴露ではない、と明確に否定)、仮に菅野氏の「悪知恵」の囁きが影響していたとしても、その言葉が深く浸透する余地を作り、「100万円寄付」発言を招いた要因の一つは、安倍首相の発言だったと言えそうだ。

■口は災いの元

ほんの一言、当事者同士の認識のずれ、言葉の行き違い、関係者同士の相性などによって生じたわずかなひずみが、大事に至る最初の一歩だったという事例はままある。森友学園騒動どころか、そういった行き違いで国家間の戦争に発展した例もある(参考:『なぜ国々は戦争をするのか』上下)。

今回は朝日が引いた導火線に火が付き、そこに様々な燃料とともに、安倍首相自らもみすみす燃料を投下してしまった。こうして並べて振り返ってみても、この二つの発言は事態を悪化させこそすれ、好転させてはいないことは明らかではないだろうか。