数字から新規事業を考えてはいけない『新規事業ワークブック』

常見 陽平

新規事業インキュベータの石川明さんから最新作『新規事業ワークブック』(総合法令出版)を頂いた。石川さんとはこれまで、下北沢B&Bで何度も公開対談をしている。お陰様で好評で、毎回、SOLD OUTになっている。私の東洋経済オンラインの連載でも、何度か記事化しているので、ぜひ、ログをご覧頂きたい。

さて、最新作だが・・・。いやあ、やられた・・・。石川さんが、会社の会議室で、目の前でワークショップ講師をしてくれているかのような本である。会社の中で新規事業を始めるためのノウハウが惜しげもなく紹介されている。それだけでなく、新規事業を企画するためのフレームワークをいかに使いこなすかがよく分かる本である。

なんせ、分かりやすい。いや、紹介されているフレームワークの中には、お馴染みのものもいくつかある。「5W2Hで考える」なんてこと自体は、どのビジネス書にだって書いてある。他にも、いかにもコンサルタントが書いたような本や、MBA的なフレームワークを学ぶ本には出てきそうなものが出てくる。ただ、本書が優れているのが、これらのフレームの使い方が、とことん「社内で新規事業をつくるため」という方向にふっており。いちいち分かりやすいのである。いや、お馴染みのフレームだらけと書いたが、少しだけ訂正しよう。あまりビジネス書には登場しないものも多数登場する。どんなフレームワークかはお楽しみに。

「新規事業を考えるための国語・算数・理科・社会」という石川流新規事業論がいい感じで炸裂している。石川明さんは、新規事業を考える際に、「数字」から入らない。それよりも「国語」を大事にする。どういうことか。「国語」の授業を思い出してみよう。「国語」は「文脈」を読まなくてはならない。文学においては、登場人物の心情を読まなくてはならない。つまり、その新規事業はなぜ、必要なのか、必要とされているのかということを掴まなくては始まらない。誰がいつ・どんな場面でどんな「不」を抱えているかを確認するのだ。その後、「算数(不の大きさ)」「理科(不が生じている理由)」「社会(不が解消せずに残っている背景)」と続く。

世の新規事業は、数字から入ることが多いことだろう。「○○市場は毎年○○%ほど増えている。これは参入すべきだ」「○○という習慣がある人は20代男性で○%。この市場を狙わない手はない」などだ。しかし、ここから入った商品・サービスはどこかズレたものになってしまう。売らんかなという根性丸出しになるわけだ。なんせ、必要とする生活者が「これじゃない」感を抱いてしまう。「国語」を軽視したサービスがなんと多いことか。もっとも、成長している市場があり、ビジネスチャンスがあり、株主からは成長が期待されているなら、それに走ってしまう理由もよく分かるのだが。その成れの果てが、例えばDeNAである。

もっとも、この本は「残酷」な本であるとも言えるだろう。なんとなく新規事業を始めようと思っている人は、ここまで丁寧にノウハウを惜しげもなく公開した本を手にし、プランを考えた後には、自分が生活者のことをまったく考えていないこと、想いが足りないことを思い知らされるかもしれない。まあ、そこから次の一歩が始まると思うのだが。


新規事業を始めようと思っているビジネスパーソンはぜひ手に取って欲しい。会社の研修でも、ワークブックとして使えそうだ。この春、何かを始めたいと思っている人はぜひ。

最後に少しだけ宣伝。著者の石川明さんとイベントを開催する。今回は日経BP社の名物社員、柳瀬博一さんと一緒に開催。「社内起業」「社内自由人」「副業」について徹底討論。

4月17日(月)の20時から下北沢B&Bにて。
http://bookandbeer.com/event/20170417_ev/

チケット、スゴイ勢いで売れている。ぜひ!


私の新作もよろしくね!いよいよ明後日あたりから本屋さんに並ぶよ!


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。