英国人は主体意識が強く傲慢 ?

当方は1980年代、4カ月余り英国に滞在していた。それも“華のロンドン”ではなく、“あの”リバプールだ。クイーンズ・イングリッシュを学ぶ機会はなく、リバプール・イングリッシュを学んだ。その当方が英国の国民性に関連するテーマのコラムを書くのは相応しくもない上、知識や経験にも乏しいことを知っている。批判を覚悟の上でこのコラムを書き出した。テーマは「なぜ英国は国際機関、多国籍機関から脱退するか」だ。

英国は44年間お世話になった欧州連合(EU)を離脱することを決定し、3月29日、メイ首相が署名した離脱通告書をブリュッセルに手渡した。これを受け、英国は今後2年間の離脱交渉を経て、ブリュッセルから別れることになる。

その離脱決定は昨年6月の国民投票で決められたが、その直後、「われわれはEUから離脱したくはない」という声が国内では「離脱万歳」といった歓声より大きかった。英国民の心は他国民が考える以上に複雑だ。明確な点は、大多数の英国民はEU離脱が何を意味し、どのような結果をもたらすか慎重に考えることなく投票場に足を向けたことだけだ。

ところで、英国が国際機関、多国籍機関に加盟した後、脱退するケースはEUが初めてではない。英国は2012年、ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)から脱退している。加盟するが、脱退も素早い。UNIDOの問題や腐敗を知りながらも脱退しない日本とは好対照だ。その意思決定は迅速だ。

それでは、なぜ英国は国際機関からの脱退を他国より迅速に決められるのか。考えらえるシナリオは、英国が昔、世界を支配した大国であり、大国意識が強く、他国の主権や多国籍機関の管理下に入ることを良しとしない国民性がある。いい意味で主体性が強く、個人主義だ。悪く言えば、傲慢だ。EU離脱が決まった直後、「英国民の主権を取り戻した」という声が聞かれたことを思いだす。

ひょっとしたら、英国民は損得の計算が他国の国民より早いのかもしれない。ちなみに、劇作家オスカー・ワイルドは「英国人は、小切手は人生の全ての問題を解決できる、と信じている」と述べている。

外交は綺麗ごとではない。国益第一としたもので、外交の舞台裏では激しい国益争いが展開されている。損となれば、そのような機関、団体に所属しない。もちろん、その損得の計算は決して経済的な計算だけではなく、戦略的判断など多方面の検討が不可欠となる。プラスが多ければ残る、マイナスが多ければ出ていく、といったことになる。マイナスが多くても、国家の面子や国際社会への貢献などの理由からメンバーに留まるケースが少なくない日本の外交とは違い、英国はそのような拘束を受けないのかもしれない。英国のEU離脱を決定した国民投票という形式にも問題がある。損か得か、イエスかノーかの二者択一とならざるを得ないからだ。

英国の食生活について、わずかな経験しかない当方はどうしてもリバプール市内のフィッシュ・アンド・チップスの風景しか思い浮かばない。英国の食文化は本来、そのような貧弱なものではないだろう。同じように、長い歴史を誇る英国の国民性は当方が考えているような世界でないかもしれない。英国通の読者から啓蒙的なコメントを期待している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月1日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は写真ACより)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。