日銀のステルス・テーパリングとそれを“忖度”する市場

今年の流行語大賞に選ばれるであろう言葉に「忖度(そんたく)」がある。森友学園の問題で国有地売買において忖度があったのか、なかったのか、国会の与野党の議論でも飛びかっていた用語である。

忖度とは、他人の気持をおしはかることと言う意味がある。森友学園の問題では、上司などの意向を推し量るといった意味合いで使われているとみられる。相手から直接言及されたり指示されたりされなくとも、相手が何をしたいのかを推量し、それに応ずるというのが忖度の意味ではないかと思われる。

その意味では国債買入に対する日銀の姿勢についても、市場はまさに忖度しているとも言えるのではなかろうか。

日銀は昨年9月に長短金利操作付き量的・質的緩和政策を導入した。操作目標を「量」から再び「金利」に戻し、フレームワークの変更を行った。これによりマネタリーベースの目標値はなくしたが、なぜか長期国債の買い入れに対する量については数字を残した。

国債の買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとするとし、80兆円という数字を残したのである。

しかし、現実には80兆円を維持するのは困難になりつつある。そのために、2015年12月に補完措置を導入し買入可能な国債の金額を増加させた。しかし、それでも2016年度は年間国債発行額に相当する金額を購入せざるを得ない。2017年度の国債発行額は2016年度に比べ、カレンダーベースで差し引き5.8兆円の減額となることもあり、現在の規模のままでの国債買入は金融機関保有の国債引き剥がしともなり、次第に困難になっていくことが予想される。

この80兆円に関してはあまり意味はなくなりつつあり、減額可能な中期ゾーンなどを中心に一回あたりの買入額を修正する格好ですでに減額を行っている。これはステルステーパリングとも呼ぶ人もいる。

米国のFRBは非伝統的な金融緩和手段としての量的緩和に際し、毎月の国債等の買入額そのものを目標値としていた。このため正常化の過程においてはその金額を減少させるという、テーパリングという作業が必要となった。

これに対して2013年3月に決定した日銀の量的・質的緩和政策では、年間ベースでのマネタリーベースや国債買入額を目標水準としておき、それを達成するための毎月の国債買入額は特に数値目標化はされなかった。さらに昨年9月の長短金利操作付き量的・質的緩和の導入により、80兆円という数字も目標数字とはならず、あくまで長期金利をゼロ%に抑えるための目安(めやす)的なものとなっている。

このため日銀が結果として毎月の国債買入額を減らしたとしても、現実にはこれはFRBのテーパリングとは違う意味合いとなる。しかし、現実には国債の買い入れ額は減らさざるを得ないし、80兆円という数字も形骸化しつつある。そのあたりの日銀の姿勢について、大胆な緩和政策を継続しているように見せているが、現状はちょっと違うということについて、市場参加者はまさに「忖度」していると言えるのではなかろうか。

大胆な金融緩和を維持しているようで、現実にはブレーキが掛かっている。それでも長期金利は日銀の意向も意識して、ゼロ%近辺に維持させざるを得ない。果たしてこんな状況がいつまで継続可能なのであろうか。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年4月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。