【映画評】LION/ライオン 25年目のただいま

渡 まち子

サルーは、5歳の時、インドで迷子になり、孤児と認定されて、オーストラリア、タスマニアに暮らす夫婦に養子として引き取られる。利発な彼は、すぐに夫妻と新しい土地になじむ。だが、成人して本土の大学に進学したサルーは、インドにいて今も自分を探しているであろう本当の母や兄への思いが日に日に募っていた。家族を見つけることを決意したサルーは、わずかな記憶を手掛かりに、Google Earth を駆使して捜索を始める…。

5歳の時インドで迷子になりオーストラリアで養子として育ったインド人青年が25年の時を経て本当の家族を探し当てるまでを描く驚きの実話「LION/ライオン 25年目のただいま」。迷子になったのは1986年。その25年後に主人公サルーが家族を探す手助けをしてくれるのはGoogle Earthだ。IT技術が進んだとはいえ、あまりに遠い距離の“ホームカミング”がそんなに簡単に成功するものなのか?!と首をかしげたくなるが、これが実話だというから驚いてしまう。サルーはオーストラリアで幸福に暮らしているのだが、心にぽっかりと空いた穴を埋められない。愛してくれる養父母がいるのに、本当の家族を探すのは、一見身勝手にも思える。しかしそれはDNAレベルでの喪失感に基づく行為なのだ。実話なので彼が本当の家族と巡り合うことは分かっているのだが、それまでのプロセスが非常に面白い。サルーのおぼろげな記憶にあるのは、大好きだった揚げ菓子と、駅のそばの給水塔だけ。列車の中で眠り込んだ時間から距離を割り出す。給水塔のある場所から範囲を絞り込む。数字やデータを使っての検索は徐々に真実への道を照らし出していく。同時にサルーや養母の心情も丁寧に描かれる。

インドで迷子になった時期は、よくまあ無事で…と思うほど波乱万丈なのだが、危険な場所や悪い大人を敏感に察知しながらたくましく生き延びる様には、サルーの中に原初的に備わる生命力を感じるし、本当の家族を探すことには自分とはいったい何者なのかを模索する、普遍的な命題が見て取れる。もっとも、養母が語る、サルーを養子にした理由が「神の啓示を受けたから」というのは、無宗教の自分には理解不能なのだが…。それでもこの驚きの実話には素直に感動を覚えた。それはデヴ・パテルやニコール・キッドマンの説得力のある名演技と、子ども時代のサルーを演じるサニー・パワールの圧倒的な存在感があるから。ラストに登場する本物のサルーの映像には思わず涙ぐんだ。そして初めてこの映画のタイトルがなぜ「ライオン」なのかが分かる。壮大な“探し物”には、沢山の奇跡と愛がつまっていた。
【70点】
(原題「LION」)
(オーストラリア/ガース・デイヴィス監督/デヴ・パテル、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマン、他)
(驚きの実話度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月7日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。