シリア攻撃を巡る米ロの「情報戦」

池内 恵

flickrより(編集部)

死者・着弾数…食い違うミサイル被害 米国とアサド政権:朝日新聞デジタル 

ロシアが発表するミサイル着弾数が、米国が発表した発射数と食い違う理由は現状では確定できない。59発中23発しか標的に着弾しなかったとするロシア側の発表する説は、(1)不発・あるいは誤爆した、(2)ロシアが供与した防空システムが撃ち落とした(あるいはロシアの情報に基づきアサド政権が撃ち落とした)といった憶測を誘うことがとりあえずの目的なのだろう。典型的な情報戦である。

個人的には、ロシア当局らしい米当局への「小粋なメッセージ」の類ではないかと思う。というのは、ロシアがシリアに直接軍事介入を開始したのが2015年9月末だが、10月7日にカスピ海上の艦船から巡航ミサイルで反アサドの反体制派の標的を攻撃した。
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-34465425

この時に、ロシア側は、11の標的に向けて26発発射し、全て命中した、と主張。それに対して米側は、そのうち4発がイランに落下した、とロシアの巡航ミサイルの精度を疑わせるような見解を発表した。

なぜ落ちたのか、そもそもどうやって知ったのかを米側は明らかにしなかったので(少なくとも私は続報を知らない)、米側のイラン内部でのインテリジェンス能力が高い、とか米による何らかの妨害で巡航ミサイルが落ちた、といった憶測が惹起された。これもまた米側の情報戦の一環だったのだろう。

推測だが、今回はロシア側が、割合からはちょっと多めに「不発」あるいは何らかの方法で着弾阻止をしたかのような情報を流して「お互いさま」と意趣返しした、という可能性がある。

ロシアと米国の間の情報・宣伝戦では、時々相互に担当者が目配せのメッセージを送り合うかのように見えるやり取りがある。部外者には結局何のことだかわからない。

多くの場合、やがて、こんな主張をしたことすらロシアはおくびにも出さなくなる。真に受けて検証したり、ひいてはこれを根拠として米国を非難している人を小馬鹿にするような情報すら出してくる。敵だけでなく適度に味方も翻弄しておくのがロシアの情報戦である。冷戦で長期間の情報戦をアメリカと互角に戦ったロシアの懐の厚さ、つかみどころのなさである。


編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2017年4月9日の記事を転載させていただきました。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。